海外文学読書録

書評と感想

岡本喜八『ブルークリスマス』(1978/日)

★★★

UFOに遭遇した人たちの血液が青くなる現象が起こる。国営放送の報道部員・南(仲代達矢)が、このことを予見して失踪した兵藤博士(岡田英次)の行方を追う。やがて世論は青い血を持つ人間を排斥するようになり、彼らを強制収容所に送ることに。そんななか、国防庁特殊部隊員の沖(勝野洋)は理髪店店員の冴子(竹下景子)と懇ろになる。ところが、彼女の血は青くなっていた……。

風刺の効いた映画だったけれど、一方で巷間の陰謀論を映画化するとこうなるのかなと思った。現実世界で陰謀とされるものが事実だったらどうなるのか。そういう仮想の現実をディストピア風に描いている。

青い血というのは人種問題だったり宗教問題だったりを含意している。というのも、青い血の人はただ血が青いというだけで有害なところはひとつもない。通常の人と血の色が違うだけである。しかも、科学的になぜ血が青くなっているのかも解明されていた(宇宙光線がヘモグロビンの鉄を銅に変えている)。現代の人権意識に照らせば放っておくのが筋だろう。しかし、「将来何かあるかもしれない」という理由で国家権力が迫害してくる。結局のところ、人間はマイノリティが嫌いなのだ。自分と違う存在が怖い。自分と違う存在が許せない。そして迫害の理屈がまた奮っていて、青い血=宇宙人=人間ではない=殺してもいい、と変換されて遂には殺戮に及んでいる。この辺はナチスによるホロコーストを意識しているのだろう。自分と違うものへの恐怖、あるいは得体の知れないものへの恐怖は根深く、人類の共生など到底叶わないものだと痛感する。

とはいえ、青い血はUFOがもたらす疫病のようなものである。政財界の偉い人たちだって罹患する可能性があるのだ。にもかかわらず、国家権力を駆使して迫害に及んでいるのだから驚く。現代でたとえると、新型コロナウイルス(COVID‑19)の患者を迫害しているようなものだろう。疫病は人類に対して等しく襲いかかってくる。しかし権力者たちからは、「自分の身に降りかかるかもしれない」という思考が微塵も見られない。まるで他人事のようである。こういった想像力の欠如が脚本の穴に感じられてやや不満だった。

国家とは暴力装置(軍隊・警察)を合法的に所持している機関であり、その暴力装置は些細なきっかけで我々に向かってくる。もちろん、平時ではそんなこと少しも意識しない。むしろ、守られているという感覚のほうが強い。しかし、有事の際はどう転がるのか分からない。敵と認定されたら容赦なく牙を剥いてくるだろう。そういった危機意識を喚起させるという意味で本作は有意義だった。