海外文学読書録

書評と感想

スティーブン・ソダーバーグ『コンテイジョン』(2011/米)

★★★

香港で未知の疫病が発生、世界中に広がる。その疫病は感染力が強く、また致死率も高かった。ミネアポリス郊外に住むミッチ・エムホフ(マット・デイモン)は、疫病で妻(グウィネス・パルトロー)と継子を亡くす。CDCのエリス・チーヴァー医師(ローレンス・フィッシュバーン)は、EISのエリン・ミアーズ医師(ケイト・ウィンスレット)をミネアポリスに派遣して調査に当たらせる。CDCではアリー・ヘクストール医師(ジェニファー・イーリー)がウイルスの遺伝物質を解析する。ブロガーのアラン・クラムウィディ(ジュード・ロウ)は、自身のブログで陰謀論を撒き散らす。香港ではWHOの疫学者レオノーラ・オランテス医師(マリオン・コティヤール)が地元の政府職員に拉致される。

疫病と真摯に向き合った映画で、よくあるパニック映画のように扇情的でないところが良かった。香港で疫学者が拉致されるところはスリラーっぽいものの、基本的には医療従事者の地道な活動を地味に描いている。

主な登場人物が川の上流にいる人たちなので、僕みたいな一般人にはいまいちピンとこないところがある。特にCOVID‑19が流行している現在だと、こんなに上手く物事は運ばないだろうと思うのだ。たとえば、疫病の発生からわずか133日でワクチン接種までこぎつけるのはあり得ない。現実の製薬会社はそこまで優秀ではないから。しかし、所々で垣間見える民衆の挙動は現在を予見している。陰謀論に走ったり、買い占めを行ったり、暴動を起こしたり。これらはアメリカ人の習性を見事に捉えている。アメリカって世界一の超大国のわりには民度が低く、非常時になると国民が簡単に暴徒化するから恐ろしい。行き過ぎたエゴイズムは共同体にとって脅威であることを再確認した。

本作はパンデミックを扱っているとはいえ、焦点を当てている地域が限定的なので、日本人にはあまり刺さらない。日本には日本固有の問題があり、そのことで国民は今も頭を痛めている。国会議員は利権確保に必死だし、ワクチン接種は諸外国に比べて遅れているし、緊急事態宣言の乱発で国民はフラストレーションを溜めている。そういった固有の問題を抜きにしても、本作はあまり下々の人たちにコミットしてないので、そこはもっと上手い見せ方があったと思う。

疫病が社会から奪うのは人と人との信頼関係だ。感染を防止するために人との接触を避ける。相手はウイルスを保持しているんじゃないかと疑心暗鬼になる。本作では描かれてないけれど、COVID‑19が流行している日本ではマスクをしない人間は白眼視されており、店舗によっては出入りを禁じられている。人を見たら泥棒と思えという精神が蔓延している。その結果、同調圧力によって人々は嫌々マスクを着用することになる。僕もマスクをしてない人との会話には抵抗があるので、客観的に見ると世間の同調圧力に加担する側だ。疫病とは人の意識を変え、社会を変えるものだと痛感する。