海外文学読書録

書評と感想

『ザ・パシフィック』(2010)

★★★★

1941年12月7日。日本軍が真珠湾を攻撃してきた。第1海兵師団の海兵隊員たちが戦場へ向かう。ガダルカナル島の戦いから沖縄戦まで。

原作はユージン・スレッジ『ペリリュー・沖縄戦記』【Amazon】、ロバート・レッキー『南太平洋戦記―ガダルカナルからペリリューへ』【Amazon】。HBO制作の戦争ドラマで、『バンド・オブ・ブラザース』の姉妹編みたいな位置づけになっている。

戦争における人間性を描いたドラマと言えそう。とにかく海兵隊員の日本兵への憎悪が凄まじく、負傷してまだ息のある日本兵に容赦なく止めを刺している。海兵隊では捕虜はとらない方針らしい。また、自ら姿を現して的になった日本兵をいたぶったり、無抵抗の少年兵を射殺してはしゃいだり、その心中は憎悪と狂気に支配されている。彼らがこうなったのも日本兵が頑強に抵抗してるからだし、決して快適とは言えない南方の風土も関係しているのだろう。兵士たちは熱帯雨林のなかで泥にまみれているうえ、赤痢マラリアに苦しめられている。この戦場ではとにかく人間が虫けらみたいに殺される。生命の価値が尊重されず、人間であることを否定される。目の前にいるのは憎むべきジャップでしかない。相手は人間ではないのだ。そして、現代のアメリカ人はジハード戦士にかつての日本兵を重ねている。憎悪を次の世紀にまで持ち越しているのだから救いようがない。

日本兵がバタバタ死んでいくところは見ていてきつかった。ガダルカナル島では、砂州を渡っていた日本兵が機関銃で皆殺しにされて死体の山を築いているし、また、幾度もバンザイ突撃をしては戦果をあげることもなく無駄死にしている。何で機関銃の前に無策で姿を現すのだろう? 戦争というのは、こちらの犠牲を最小限にしつつ、敵に最大限の損害を与えるのが目的ではないのか。これでは兵力が不足して後の戦いで不利になってしまう。「死を恐れない」と言えば聞こえはいいけれど、実際には戦闘に勝ててないわけで、上層部の無能ぶりが透けて見える。現場の兵士はたまったものではない。

一方、ペリリュー島ではこれまでとは打って変わって、日本軍が最初から徹底抗戦しており、上陸してくる海兵隊を狙い撃ちにしている。海兵隊日本兵を一方的に殺戮するというお決まりの展開ではない。かなりの激戦が行われている。ドラマではこの戦いに3話も費やしているので、天下分け目の決戦だったのだろう。海兵隊員が何人も死傷していくのはこれまでにないことだった。

沖縄戦は民間人も巻き込まれていて、今まで以上に見るのがつらかった。海兵隊員は相変わらず日本兵への憎悪で満ち満ちている。無抵抗の少年兵を射殺するエピソードもここだ。

本作を観て思ったのは、人間は死んだらおしまいということだ。死後に勲章を授与されたり、遺族に見舞金を贈られたりしても、生きてなければ意味がない。戦争とは、人間の命をいかに蕩尽するかという破壊的なイベントである。自殺志願者でない限り、絶対に回避しなければならない。巻き込まれそうになったら逃げる。地の果てまで逃げる。逃げて逃げて逃げまくる。そのためには、外国でも生きていけるようなスキルを身につけるべきだろう。たとえ格好悪くても、生き延びることが我々にとっての戦いである。