海外文学読書録

書評と感想

石川俊介『劇場版ブルーロック -EPISODE 凪-』(2024/日)

★★

白宝高校2年生の凪誠士郎(島﨑信長)は一生だらだらしたいというやる気のない人物だったが、同じ高校の御影玲王(内田雄馬)に誘われサッカーを始める。玲王は凪の天才ぶりに惚れ込んでいた。やがて2人はユース年代の特別強化選手としてブルーロックに招集される。

原作は金城宗幸、三宮宏太、ノ村優介『ブルーロック-EPISODE 凪-』【Amazon】。

『ブルーロック』の1期を凪視点から語り直している。本編を補完する内容であるものの、後半は総集編みたいで飽きてしまった。こういうスピンオフは『ブルーロック』というIPと相性が悪いのではなかろうか。というのも、外での生活はそれぞれ違っているが、ブルーロック集結以降は密室的な状況でやっていることはみな同じなので。内容も本編を見ていればだいだい察せられるし、こちらの予想を大きく超えることはない。小さな差異を確認するための、言ってみればおたく向けの映画だった。

お話としては『リズと青い鳥』のような依存と自立の物語で、凪と玲王はブルーロックを通じて関係の変容を迫られる。玲王にとって凪は自分が惚れ込んだ天才で、彼の望みは凪を世界一にすることだった。決して凪を退屈させたりしない。最高の人生を与えたいと思っている。一方、凪にとって玲王は自分に興味を持ってくれた初めての人物だ。だから特別な存在である。凪は自他ともに認める面倒くさがり屋だが、玲王のわがままに付き合うのもやぶさかでない。目指すは2人で世界一。ところが、ブルーロックの試練はそんな彼らを自立に導いていく。

ブルーロックにおいてもっとも重要なのはエゴである。何を差し置いても自分がゴールを決める。自分が世界一のストライカーになる。そのような強烈な自意識が求められる。世界一は2人も存在しないからみんなライバルだ。当然、凪と玲王にもその力学が働いてくる。凪は天才で頑張るということがいまいちピンとこない。自分は努力しなくても何でもできるから、ブルーロックの面々が必死になっているのを不思議に思っているのだ。ところが、そんな彼が試合を通じてライバルたちに感化され、覚醒する。ブルーロックの仕掛人によると、覚醒とは「個人が己を学習する瞬間」なのだという。凪はぎりぎりの攻防のなか、自分の可能性を知ることでサッカーの面白さに目覚める。

それまで玲王の奴隷だった凪は、サッカーの面白さに目覚めることで自立することになった。玲王との共依存を断ち切ることになった。人が変わると人間関係もまた変わる。本作にはそういった青春の残酷さが描かれているが、かといって2人の絆が完全に消えたわけではない。そのことを凪のモノローグで補完している。表面的には玲王を切り捨てつつ、内心ではもう一度玲王と世界一を夢見ていた。一方、玲王は凪に捨てられた恨みを抱いており、それが自立の原動力になっている。磁石のように引き付け合い、また反発する2人。そういった人間関係の微妙な間合いが本作の肝だろう。凪と玲王に焦点を当てることで、依存と自立の構造が鮮明になっている。

とはいえ、『ブルーロック』にさほど思い入れのない僕は、総集編みたいな内容に辟易したことも否めない。後半はひたすら退屈だった。

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