海外文学読書録

書評と感想

渡邉徹明『ブルーロック』(2022-2023)

★★★

日本フットボール連合がワールドカップで優勝できるストライカーを育成するため、ユース年代のFW300人をブルーロックに収容してデスゲームさせる。失格したら日本代表入りの資格を永遠に失うのだった。集められたメンバーの中には潔世一(浦和希)もいて……。

原作は金城宗幸、ノ村優介の同名漫画【Amazon】。

全24話。

デスゲーム×能力バトル×BL的人間関係を無理なく組み込んでいて面白かった。

サッカーを題材にしてるのものの、デスゲームを行うにあたって変則的なルールが用いられる。最初の入寮テストはオニごっこだった。ボールをぶつけられた者がオニとなり、最後までオニだった者が脱落するのである。しかし、これは挨拶みたいなもの。序章にすぎなかった。

一次選考は棟内の5チームによる総当りリーグ戦である。ようやくまともなサッカーアニメになったかと思いきや、ルールがだいぶ捻ってある。文句なしに勝ち抜けるのは上位2チーム。それだけでなく、各チームの得点王も勝ち抜けるのだ。おかげでチーム内でも駆け引きが起きることになる。もし自チームが上位2チームに入れないなら、仲間を蹴落として自分が得点王にならなければならない。そもそも全員FWだからまともにサッカーをやるのも試行錯誤だった(最初はお団子サッカーをやっていた)。そして、自分が勝つということは相手を地獄に送るということ。そこには言い知れぬ快感がある。まさにデスゲームの醍醐味である。

能力バトルとして楽しめたのが二次選考の奪敵決戦だった。最初は3人のチームからスタート。勝ったら相手チームから1人引き抜いて次のステージに進める。負けたら後退で最後の1人になったら脱落だ。二次選考をクリアするには最終的に5人のチームになる必要がある。この辺は個性と個性をいかにして組わせて勝つかが肝になっていて、能力バトルの醍醐味を存分に味わえる。たとえば、主人公の潔世一は空間認識能力。彼に執着する蜂楽廻(海渡翼)はドリブル能力。他にも國神錬介(小野友樹)はミドルシュート、千切豹馬(斉藤壮馬)はトップスピード、凪誠士郎(島﨑信長)はトラップを得意としている。勝つためにはそれぞれの個性で化学反応を起こす必要がある。

複雑なのはエゴが重視されているところだ。ただチームが勝つだけでは駄目。自分が得点して勝つべきという価値観で動いている。相手チームがライバルなのは当然として、チームメイトも同程度にライバルなのだ。そもそもこのデスゲーム自体、FWにもっとも大切なのはエゴという名目で行われている。日本人は献身的なプレイは得意だが、エゴに欠けている。だから世界的ストライカーが育たないのだ、と。

本作におけるエゴの重視はテン年代の反動だろう。ゼロ年代新自由主義によってエゴが剥き出しの時代だった。みんな欲望の赴くまま金儲けをしていた。ところが、2008年のリーマンショックによって一転して風向きが変わる。行き過ぎたエゴは格差社会を呼び、人々に分断をもたらすのだ、と。そして、テン年代のエンタメはその空気をいち早く取り入れていた。『鬼滅の刃』の鬼殺隊はエゴを抑えた全体主義の集団だったし、『進撃の巨人』調査兵団も同様だった。集団のために個を殺す。テン年代はそういう時代だった。

その反動が20年代になってやって来た。新自由主義への回帰が始まったのだ。大切なのはエゴであり、競争であり、勝つことである。資本主義社会ではどうしても勝ち組と負け組に分かれる。勝ち組に入りたければ個性を磨いて成長するしかないし、状況に適応して自分を作り変えるしかない。つまり、本作はサッカーの皮を借りて資本主義を描いているのだ。そもそも他人を蹴落として勝ち進むデスゲーム自体、資本主義の産物である。僕にとって本作は資本主義の寓話だった。

男同士の執着も本作の肝で、蜂楽は潔に執着し、玲王(内田雄馬)は凪に執着している。しかし、潔も凪も別の方向を見ていた。二次選考の奪敵決戦で描かれているのは略奪愛である。執着しているあいつを取り戻したい。執着しているあいつを振り向かせたい。こういった男同士の熱意が腐女子人気に繋がっているわけで、本作が商業的に成功したのも頷ける。デスゲーム×能力バトル×BL的人間関係。本作はそれを高度に達成している。