海外文学読書録

書評と感想

『王様戦隊キングオージャー』(2023-2024)

★★★

15年前の神の怒りで民の大半を失ったチキュー。シュゴッダムの国王ギラ(酒井大成)、ンコソパの国王ヤンマ・ガスト(渡辺碧斗)、イシャバーナの女王ヒメノ・ラン(村上愛花)、ゴッカンの国王リタ・カニスカ(平川結月)、トウフの王殿様カグラギ・ディボウスキ(佳久創)、バグナラクの王ジェラミー・ブラシエリ(池田匡志)が活躍する。また、シュゴッダムの前王ラクレス(矢野聖人)も。

全50話。

CGで作り上げられた架空の王国が舞台。当初は『ゲーム・オブ・スローンズ』の劣化版に見えたが、慣れるとこのおもちゃ箱みたいな世界も特撮の味に思えてくる。ほとんどスタジオで撮影しているところが特徴で、背景はブルーバックではなくLEDウォールを使っているらしい*1。つまり、東映の最先端技術が投入されている。架空の王国を表現しているので映像の癖は強いが、特撮の進化の方向性が示されていて興味深かった。背景には長時間労働とコスト減らす目的があるという*2。今後しばらくスーパー戦隊シリーズはこれで行きそうだ*3。仮面ライダーシリーズは相変わらずロケ撮影なので、いい感じに住み分けができそうである。

一般的に王様というのは封建遺制でイメージが悪い。民主主義の時代に君主制とはアナクロニズムにも程がある。しかし、本作の王様たちは民に慕われ、危機のときは自らが前線で戦うヒーローである。民との距離が近く、身分格差はあまり感じない。昨今の民主政と大差ない親しみやすい政治形態である。選挙ではっきりと選ばれたわけではないが、民の支持を受け民を代表している。国の支配者ではなく、民を守るためにリーダーシップを発揮している。そういう理想化された王様が複数いて、それぞれ国益を守るためにバラバラだったり協力したりしている。本作は多様な個人が平和に共存することに重きを置いているようだ。思えば、『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』も個人主義とゆるい連帯を前面に出していた。「みんな違ってみんないい」という価値観が現代の潮流なのだろう。発達障害も尊い、クルド人も尊い、LGBTも尊い。同じ社会で暮らすすべての個人が尊いのである。王様という封建遺制をモチーフとしながらも根底にリベラルな思想があるところはさすが東映だ。たとえば、最近のプリキュアシリーズも同じ路線である。子供向けのエンタメは理想主義こそ大切だと思うので、この姿勢は支持できる。世の子供たちはニチアサを見て素直に育ってほしい。

癖の強い映像に反して脚本がしっかりしていた。個別のエピソードでは王様たちの人格が入れ替わったり個人を掘り下げたり神回が散見されるし、縦軸も4クールものにふさわしい壮大なもので圧巻である。そして、ラスボスは創造主にしてトリックスターだが、現代において神とはこういうものなのだろう。もはやキリスト教の厳格な神はリアルではない。ルドラサウムや新条アカネのように面白半分に人間に干渉してくるのがリアルなのだ。無邪気なトリックスターとしての神。最近では『アンデッドアンラック』【Amazon】もこの路線であることを仄めかしている。ともあれ、現代は父殺しならぬ神殺しがひとつの潮流になっており、本作は神殺しを通じて王様の復権を果たしているのだから面白い。現実の王様は革命に敗れたが、本作の王様たちは神に対して革命(反逆)を果たすのである。封建遺制として嫌われがちな王様を民の代表としたところが本作の妙味だ。

個別のエピソードでは王様たちが入れ替わる28話、リタがアイドルに扮する38話がお気に入りである。普段と違った演技をすることで若手俳優は鍛えられるのだと感心した。