海外文学読書録

書評と感想

『暴太郎戦隊ドンブラザーズ』(2022-2023)

★★★★★

宅配便の配達員・桃井タロウ(樋口幸平)がドンモモタロウになり、女子高生漫画家・鬼頭はるか(志田こはく)がオニシスターになり、無職の俳人・猿原真一(別府由来)がサルブラザーになり、指名手配犯・犬塚翼(柊太朗)がイヌブラザーになり、コンサルタント会社社員・雉野つよし(鈴木浩文)がキジブラザーになる。当初はお互いの正体がまだ分からない。人間は欲望に取り憑かれるとヒトツ鬼になるが、ドンブラザーズはそれを倒して元に戻していく。また、ソノイ(富永勇也)、ソノニ(宮崎あみさ)、ソノザ(タカハシシンノスケ)の脳人3人衆が敵として現れる。

全50話。

とても面白かった。スーパー戦隊シリーズは子供の頃に観たきりで、しかも内容をあまり覚えてないが、ここまで破天荒なものではなかったと思う。コメディとして面白いし、何よりテンションがおかしい。ドンブラザーズは桃太郎をモチーフにし、戦闘はカーニバルを意識しているようだ(ドンモモタロウは神輿で登場しながら「祭りだ」と騒ぐ)。ドラマパートのユーモアと戦闘パートのハチャメチャ感がたまらなかった。

ドラマパートについてはキャラクターに好感が持てるところが大きい。

タロウはバカ正直ゆえに他のメンバーと摩擦を起こし、一般人と絡んだ際はヒトツ鬼製造機となる。嘘をつけず、お世辞も言えないタイプだ。そんなタロウはドンモモタロウに変身した際、躁状態になるところが面白い。彼にとって他のメンバーは「お供たち」であり、独特の俺様キャラで場を支配する。

はるかは本作の語り手であり、理不尽な状況を前にしては心の声でツッコミを入れる。そのツッコミ能力の高さが素晴らしい。笑いにおけるツッコミの重要性を痛感させる。

猿原は中学を卒業して以来、一度も働いたことのない風流人だ。彼は人間の欲望を嫌っており、金に触ると火傷をする特異体質になっている。要所要所で俳句を詠む猿原は、人からのお恵みで生活しているようだ。彼はバキのように空想の食事を食べて腹を満たすエア食事を特技としている。しかし、そんな変人もタロウの前に出ると常識人になるのだから可笑しい。タロウがぶっ飛んだ性格をしてるがゆえに、それを諫める立場に立たされている。変人と常識人を行き来するところが猿原の魅力だ。

雉野は「なつみほ問題」の当事者であり、妻のみほ(新田桃子)を巡って様々なドラマを展開している。雉野はみほを愛し過ぎて依存しており、その様子は母親に甘えているかのようだ。そんな彼がみほを原因としてヒトツ鬼になるのも必然だろう。「なつみほ問題」とは1人の女(夏美=みほ)を2人の男(雉野と犬塚)が取り合う問題であり、この問題は三角関係から四角関係に変形して最後は収まるべきところに収まっている。

犬塚も「なつみほ問題」の当事者である。彼の面白いところは戦隊内におけるアウトサイダーな立ち位置だ。他の4人は序盤でお互いの正体が分かるのに対し、犬塚だけは終盤まで分からない。4人は犬塚がイヌブラザーだと分からないまま接することになる。もちろん、犬塚も他の4人がドンブラザーズだとは分かってない。この捻くれた立ち位置が刺激的である。

追加戦士のジロウ(石川雷蔵)はタロウの後継者として鳴り物入りで登場した。分裂した自我の持ち主で癖が強い。最初は彼の存在を邪魔に思ったが、終盤で悲しい体験を経て成長するところにカタルシスがあった。

敵も味方もないというコンセプトも素晴らしい。ソノイ、ソノニ、ソノザの脳人たちは当初敵として登場する。ところが、戦いと交流を経て最後はドンブラザーズに加わる。茶番を繰り広げることで段々と敵対関係が解消されていくのが面白い。ソノイはタロウと、ソノニは犬塚と、ソノザははるかとマッチアップする。彼らの馴れ合いもドラマを盛り上げる大切な要素だった。

本作は「なつみほ問題」を始めとした縦糸を複数仕込んでいて飽きさせないし、何よりドラマパートのユーモアと戦闘パートのハチャメチャ感が最高である。本作を観たのは本放送が終わってからで、全50話を2週間で観ている。視聴者を4クール(1年間)引っ張っていく牽引力は並大抵のものではない。出来ればリアルタイムで楽しみたかった。明るく弾けた世界観はまさに見るドラッグである。