海外文学読書録

書評と感想

フランソワ・トリュフォー『逃げ去る恋』(1979/仏)

逃げ去る恋(字幕版)

逃げ去る恋(字幕版)

  • ジャン=ピエール・レオ
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★★★

印刷所で働くアントワーヌ・ドワネル(ジャン=ピエール・レオ)は、自伝的な恋愛小説を出版していた。別居中の妻クリスチーヌ(クロード・ジャド)とは離婚協議をしており、現在はレコード店で働くサビーヌ(ドロテ)と付き合っている。アントワーヌは協議の末に離婚。息子アルフォンス(ジュリアン・デュボア)を駅まで送った際、昔の恋人コレット(マリー=フランス・ピジェ)を目撃する。アントワーヌはコレットが乗車している列車に飛び乗るのだった。

『家庭』の続編。

アントワーヌ・ドワネルものはこれまで4作公開されたが、本作は過去の映像素材をモンタージュ的に使用したシリーズの集大成になっている。『大人は判ってくれない』から20年。あれから俳優たちも歳を重ねた。このシリーズは最近集中して見たにもかかわらず、過去の映像はほとんど覚えてない。しかしまとめて見ると、アントワーヌが子供の頃からあまり成長していないことが分かる。面白いのは、アントワーヌが自伝的な恋愛小説を出版しているところだろう。そこでは過去の恋愛遍歴が彼にとって都合のいいように歪曲されている。そのことをコレットから詰められるシーンは思わず笑ってしまった。周囲をモデルにする作家はこういうところで嫌われる。率直に言って、僕もアントワーヌみたいな人とはお近づきになりたくない。

これは偏見だが、フランス人にとって浮気は日常茶飯事である(それこそ王政の時代から)。だからアントワーヌの浮気性については特別おかしいとは思わないが、それを踏まえても自己本位で相手の気持ちを考えないところが目立つ。女を見たらすぐキスをしたがるのは何なのだろう? 特に離婚したばかりのクリスチーヌに対し、キスを含む過剰なスキンシップを取っているところが気になる。おそらくフランスではこの手合いが粋な男として認識されているのだろう。とにかく女に対してがつがつ行く。相手が嫌がっても強引に押していく。浮気も同様で、婚姻関係があっても欲望を抑えることはしない。法的な契約よりも自分がしたいことを優先させる。ある意味人生をエンジョイしていると言えるが、そうすると結婚とはいったい何なのだろうと途方に暮れてしまう。小さい子供がいるのだったら尚更だ。フランス人のこういう価値観にはさすがについていけない。

アントワーヌがサビーヌと付き合った経緯がとてもロマンティックだ。すべては破り捨てられた一枚の写真から始まった。このエピソードはまるでおとぎ話のようである。でも、写真の女をわざわざ探して会いに来るなんて女からしたらかなり不気味で、このエピソードはそういった生々しさに敢えて触れないことによって成り立っている。こういうところはフィクションの魔法という感じだ。女を諦めないアントワーヌは良くも悪くもロマンチストであり、彼の浮気性もこの文脈で理解できる。欲望に忠実なアントワーヌこそが理想のフランス人なのだった。

ところで、本作にはリュシアン氏(ジュリアン・ベルト―)が登場する。アントワーヌの母と長らく愛人関係にあった男で、幼少期のアントワーヌに母とキスするところを目撃されている(『大人は判ってくれない』)。彼も同じ俳優の再登場かと思いきや、どうやら違っているみたいだ。まあ、全員を再登場させることはできないということで。

以下、アントワーヌ・ドワネルもの。

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