海外文学読書録

書評と感想

シャンタル・アケルマン『東から』(1993/仏=ベルギー)

★★★

ソ連崩壊後の旧共産主義国をカメラが映す。都市や人々。

とてもストイックなドキュメンタリーだった。ナレーションも字幕もなく、すべてを映像と環境音で語らせている。当然、インタビューもない。映像は固定カメラと横移動のドリーショットしか使わず、俯瞰や空撮がないところも大きな特徴だ。現代人がスマホで映画を撮ったらこんな感じになるのかもしれない。本作は撮影手法に拘りがあって商業映画というよりはインディペンデント映画のような趣である。この映画に意義があるとしたら、独特の手法で普段目にすることのない旧共産主義国を映したところだろう。ドキュメンタリーとしては扇情的でないところが好ましい。

カメラは旧共産主義国を映しているものの、説明がないため具体的な場所が分からない。日本人の僕からすると、西欧も東欧も大して変わらないように見える。強いて言えば、雪が積もっているところが東欧らしい(西欧だって雪くらい積もる)。見る人が見れば建物で判別できそうだが、意外にも近代的なビルが建っていてびっくりする。しかも、建物の密度から察するに地方都市っぽい。日本で言えば人口10万人以下のレベルだ。そういう田舎に近代的なビルがぽつぽつ建っている。あまりに田舎すぎて需給関係が成立しているのか気になるが、ともあれ本作に映された東欧は西欧と大差ないように見えた。西欧にもこういう地方都市ありそうである。そして、人々の生活レベルもそんなに低くない。部屋を見る限り同時代の日本より20年遅れている印象だ。おそらく当時の西欧もこのくらいの生活レベルだったのではないか。結局、90年代に近代的な生活を送れたのはアメリカと日本の2カ国だけで、それ以外はどんぐりの背比べだったのだ。しかし、そんな日本も先日GDPでドイツに抜かれて世界4位に転落した。さらに2026年にはインドに抜かれる予定である。まったく国の栄枯盛衰はままならない。

夜なのに人出が多いのが不思議だった。ある場所ではみんな何かを待っている様子である。しかし、何を待っているのか分からない。近くに地下鉄の入口があったからバスだろうか。そして、本作には色々な施設が出てくるが、日本人の僕には何が何やら分からない。かろうじて分かったのがレストランくらいだ。この調子で旅行に行ったら迷子になりそうである。ともあれ、田舎のわりに人出が多いのが気になるところで、別の場所では食料品を持った人たちが列をなしている。最初は配給待ちかと思ったが、それは過去の話であって当時は違ったはず。説明がないので何のために並んでいるのか分からない。おそらくヨーロッパの人なら分かるのだろう。日本人の僕は完全に置いてけぼりで頭の中ははてなマークでいっぱいだった。

夜中にロック音楽が流れている。バンドによる生演奏だろうか、若者たちが曲に合わせて踊っている。ロック音楽と言えば共産主義の時代は退廃的な文化として禁じられていた。それが今では解禁されている。これぞ自由の象徴という感じで好ましかった。20世紀は悲惨な世紀だったが、それでも世界は着実に良くなっている。この自由を手放してはならない。