海外文学読書録

書評と感想

シャンタル・アケルマン『ゴールデン・エイティーズ』(1986/ベルギー=仏=スイス)

ゴールデン・エイティーズ

ゴールデン・エイティーズ

  • ミリアム・ボワイエ
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★★★★

パリの地下ブティック街。ジャンヌ(デルフィーヌ・セイリグ)とシュワルツ(シャルル・デネール)は中年の夫婦。2人はブティックを経営しており、近所では若いリリ(ファニー・コタンソン)が美容院を経営している。ジャンヌの息子ロベール(ニコラ・トロン)はリリに恋をしているが、リリはギャングのジャン(ジャン・フランソワ・バルメール)の情婦をしていた。一方、美容院の店員マド(リオ)はロベールに恋をしている。そんななか、アメリカからジャンヌの元彼イーライ(ジョン・ベリー)がやってくる。イーライは30年ぶりにジャンヌと再会するや猛烈な求愛をしてくるのだった。

80年代らしいポップでキュートなミュージカル・コメディ。衣装がカラフルで見栄えがする反面、登場人物の出で立ちが妙にダサいところが目につく。そう、80年代は世界中がダサい時代だった。お洒落大国フランスも例外ではない。俳優というファッションリーダーでさえ垢抜けない雰囲気を纏っているのだ。なぜこうなったのかは分からない。日本だったらバブル経済のひとことで説明できるが、しかし当時は世界中がダサかったのだ。この時代の映画を見るたび不思議に思う。

人は誰かを愛さずにはいられない。恋愛映画はそういう楽観に支えられている。愛の先には生殖があり、人類は生殖によって繁栄した。恋愛は繁栄のイメージと結びついており、だからこそ我々は明るい気分で見ることができる。一方、先進国の出生率が軒並み下がるなか、フランスは高い出生率を維持してきた。その理由はフランス人が恋愛好きだからだろう。本作の登場人物も異性へのアプローチがすごい。相手に彼氏がいようとも、また相手に夫がいようとも、一度惚れたら構わず口説いている。みんな自分の欲望に忠実なのだ。この積極性は僕からしたら異常である。浮気や不倫に後ろめたさを感じないとはどういう神経をしているのか? おそらく彼らの根幹にあるのは人生の一回性なのだろう。人生は一度しかないのだから後悔のないように生きる。人妻だろうが何だろうが惚れた相手はガンガン口説いていく。愛する人を手に入れるためなら法律や道徳に遠慮しない。その強烈なエゴイズムにくらくらした。

本作には負けヒロインが出てくる。彼女だけ恋愛が成就しない。明日結婚式だというのに、最後の最後で婚約者を取られてしまった。こういうのを見ると、自由恋愛の本質は競争なのだと思う。並みいるライバルを押しのけて対象の愛を勝ち取る。まるでサルの群れみたいだ。人間も一皮剥けば動物ということなのだろう。ただ、人間社会は自然界と違って一夫一婦制が基本である。だから競争のあり方も自ずと異なる。心のときめきを羅針盤にしてかけがえのないパートナーを手に入れる。人の恋愛は一夫一婦制ゆえにロマンティックなのだった。

演出面で面白いのはコロスを採用しているところで、男4人が合唱して注釈を加えている。登場の仕方や歌い方がポップでとても楽しかった。