海外文学読書録

書評と感想

藤田敏八『新宿アウトロー ぶっ飛ばせ』(1970/日)

★★★

シニガミこと西神勇次(渡哲也)が刑務所から出所する。彼を出迎えたのが松方直(原田芳雄)で、直は勇次に仕事を依頼したがっていた。内容はトラブルによって失ったマリファナと相棒を取り返すこと。一方、直の経営するバーは笑子(梶芽衣子)が女将をしていたが、彼女は勇次の元カノだった。勇次と直は友愛互助会にたどり着く。友愛互助会は殺し屋・サソリ(成田三樹夫)を雇っており……。

渡哲也と原田芳雄の組み合わせが思いのほか良かった。アメリカン・ニューシネマの破滅的なヒーローといった趣である。渡哲也はやくざじみたとっぽい兄ちゃんで、原田芳雄はヒッピーじみたブルジョワアウトロー。2人は暴力を駆使して目的地にたどり着く。一方、彼らのライバルを成田三樹夫が演じている。ニヒルな殺し屋といった物腰で味があった。渡哲也、原田芳雄成田三樹夫。本作はこの3人が素晴らしい。

勇次と直は初対面だが、この2人が相棒になる過程に尺を割いていたのが良かった。刑務所から出てくる勇次。ジープで待ち構える直。ところが、勇次は早々にタクシーに乗り込むのである。これに慌てた直が大声で呼びかけるも時は遅く、タクシーは出発してしまう。直はジープで横浜まで追いかけるのだった。ここで面白いのは勇次の場当たり的な行動だ。最初は新宿まで行くも、なぜか目的地を横浜に変える。ところが、勇次にはタクシー料金が払えない。そこへ颯爽と直が登場し、金を肩代わりする。これで掴みはOKである。後は埠頭で黄昏れた後、2人で飲食を共にする。途中、笑子を巡って暴力沙汰になったものの、2人は見事ダチになるのだった。アウトロー同士がコンビを組むにはそれなりの手順を踏まないといけない。このシークエンスは人情の機微を捉えている。

サソリとの対決までは無敵のコンビといった感じで、暴力によって順調に情報を聞き出していく。不良集団に絡まれてもしっかり跳ね返しているし、特に危機といった危機はない。意外とのんびりしたものだ。ところが、サソリが乗り出してくることで戦争になる。ここからのギアチェンジがなかなかシビアで、笑子を殺されてしまうのだからハードだ。勇次と直にとってはアジトがバレているところが弱みだった。その後は反転攻勢して敵のアジトに乗り込む。ここでのガンアクションは動きが良くできていて、屋内の構造を利用して大勢の敵を打ち倒していく。一連のシーンは2人の息がぴったりで痛快だった。

ラストのヘリコプターはどうやって撮影したのか分からない。町中なのにやたらと低空飛行だし、場面によってはふらついていて危ない。ラジコンヘリかと思って注視したが、大きさからいって実機のようである。このヘリコプターは行く当てもなく飛んでいくのだが、これが勇次と直の今後を象徴しているようで興味深い。レールに乗った人生を拒否しているのは明白だし、自由ゆえの不安定さも見て取れる。ただ、冷静に考えると直の実家が太いから経済的には何の不安もないのだ。金に不自由してないのだから好きに生きられる。2人の境遇が羨ましくて仕方がない。

銃撃戦の最中、サソリの雇い主(今井健二)が人質にとられ盾にされる。ところが、サソリは彼を容赦なく撃ち殺す。このシーンには痺れた。本作で一番格好いいシーンはここかもしれない。