海外文学読書録

書評と感想

鈴木清順『密航0ライン』(1960/日)

★★★

極東新聞の香取(長門裕之)と日東新聞の仁科(小高雄二)がそれぞれ麻薬密売ルートを取材する。2人は友人だったが、取材方法は対照的だった。香取がなりふり構わず体当たりするのに対し、仁科は合法的に物事を進めている。香取は佐伯玲子(中原早苗)に接近して密輸ルートを探り出し、警察に玲子を逮捕させる。一方、仁科は香取の妹・寿美子(清水まゆみ)と付き合っており、香取のやり方に不満を述べていた。

思ったよりも普通だった。鈴木清順ケレン味のある演出をするようになったのは1963年の『野獣の青春』からなので、この頃は良くも悪くも地味である。本作は長門裕之と小高雄二のW主人公になっていて両者に見せ場がある。話のテンポもいい。悪女を演じた中原早苗も美しかった。日活パールラインは最高すぎる。一方、清水まゆみはあまり出番がなかった。後に清水は共演した小高雄二と結婚している。本作で恋人同士を演じているのが微笑ましい。清水の出番が少ないことが惜しまれる。

新聞記者が危険な囮捜査をしているのが不思議でならなかった。特ダネのためと嘯いているが、それが命を危険に晒すほど価値のあるものなのだろうか。新聞記者なんて所詮は売上という資本主義の論理に突き動かされている存在である。事件を取材するのも安い印刷物を売るため。命懸けで特ダネを掴んでもせいぜい臨時ボーナスが入るくらいだろう。本来だったら警察がやるべきことを新聞記者がやっていて、その越権行為には眉をひそめた。たとえるなら、昨今の私人逮捕系YouTuberのようである。町中の怪しい人物を力づくで逮捕し、その様子を動画に撮って閲覧を稼ぐYouTuber。誤認逮捕によるトラブルも絶えない。正義を名目にしているが、実際は暴力で他人を屈服させていい気になっている。結局のところ、我々市民は職分をわきまえるべきなのだ。犯罪への対処は警察に任せる。英雄気取りでコミットしてもろくなことにならない。

日本を第ニの香港にしたくない。だから体を張った囮捜査によって麻薬密売ルートを明るみに出す。一般人がこういうことをするのって正義感が先走っている感じがしてどうにも苦手だ。正義の暴走ですらあると思う。人間は大義名分があったら何でもしてしまう。落ち度のある人間を寄ってたかって私刑にしてしまう。香取がやっていることの先にはそのような闇が控えている。おまけに命の危険があるからすこぶるヒロイックだ。ただの正義感では片付けられない陶酔が見て取れる。香取の動機は私人逮捕系YouTuberに比べると立派だが、正義の暴走という意味では同類である。どちらも救いようがない。はっきり言ってこういう連中は嫌いだ。

最終的に組織のボス(久松晃)は健在で続編がありそうな終わり方だった。しかし、続編は作られていない。あと、これはVODだけの問題かもしれないが、日活のシネマスコープの映画は人物が動くと動いた方向にノイズが走る。おそらくコーミングノイズだろう。現代の技術でレストアできないものかと思った。