海外文学読書録

書評と感想

セルジオ・コルブッチ『黄金の棺』(1967/伊=スペイン)

黄金の棺 (字幕版)

黄金の棺 (字幕版)

  • ジョセフ・コットン
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★★★★

南北戦争後。ジョナス(ジョゼフ・コットン)は南軍を復興すべく、3人の息子ジェフ(ジーノ・ベルニス)、ナット(エンジェル・アランダ)、ベン(ジュリアン・マテオス)を引き連れ多額の紙幣を強奪する。その紙幣を棺桶に入れて馬車で持ち帰ることに。その際、棺桶には南軍大尉の死体が入っていることにし、馬車には未亡人役の女(マリア・マルティン)も立てることにした。トラブルで未亡人役が死んだため、ベンが町で代わりを調達してくる。連れてきた女はイカサマ師のクレア(ノーマ・ベンゲル)。彼女もまた一筋縄ではいかなかった。

マカロニ・ウェスタン

セルジオ・コルブッチと言えば『続・荒野の用心棒』が代表作だが、翌年に公開された本作のほうが断然面白い。日本で劇場未公開なのがもったいないくらいだった。

『続・荒野の用心棒』と本作は棺桶を小道具に使っているところが共通している。前者が機関銃を入れて人が引きずっているのに対し、後者は紙幣を隠匿しつつ馬車で運搬している。使い方としては本作のほうが王道だろう。いかにして棺桶の中身を見られないようにするか。バレずに運搬していくところにスリルがある。また、終盤で重大な取り違えが起きているところも面白い。全体的に棺桶をスマートに使っていた。

本作は強奪した紙幣を自宅まで運搬するロードムービーだが、とにかくトラブルの連続で飽きさせない。騎兵隊が大勢で捜索にやってくる。砦に棺桶を持っていくはめになる。一人のならず者にすべてを盗まれそうになる。他にも身内同士のいざこざがあって、数々のトラブルをどう打開していくかが見所になっている。そして、その過程でジョナスの父権が失墜して一家崩壊に見舞われるのだった。

ジョナスは当初、強烈な父権を発揮して集団を統率している。粗相した女をビンタし、やんちゃした息子をビンタし、息子たちには無茶な命令を下している。そこには父親としての、また指揮官としての威厳があった。ところが、一家を統率していたジョナスは旅が進むにつれて傷を負っていく。痛ましい姿を露わにしていく。そして、遂には息子たちをコントロールできずにすべてを失ってしまう。一番目をかけていたベンは正義感が強く反抗的だし、残り2人の息子は揃ってろくでなしである。そして、未亡人役に仕立てた女も計画を邪魔するのだった。ジョナスは内憂外患に抗しきれず、南軍復興の夢は頓挫することになる。最後はジョナスの父権が失墜してすべてが水の泡になった。そこに言い知れぬ無常を感じる。

30人の騎兵隊を5人で襲撃する冒頭が一番良かった。当然、まともにぶつかったら多勢に無勢である。それをどう打開するのか思ったら予想以上に派手なことをやらかしていた。やはりマカロニ・ウェスタンといえばダイナマイトだろう。ダイナマイトを投げつけ、ライフルで狙撃し、拳銃で生き残りを片付ける。たった5人で軍隊を大量殺戮するのだから爽快だ。そして、事を成した後は仲間2人を始末する念の入りようである。次々と量産される死体の数々。冒頭は殺しの快楽に溢れていた。

本作はアンチヒーローを主要人物にしたうえ、父権の失墜を描いている。本家西部劇を反転させた構造が面白い。マカロニ・ウェスタンの魅力がたっぷり詰まっていた。