海外文学読書録

書評と感想

パスクァーレ・フェスタ・カンパニーレ『女性上位時代』(1968/伊)

女性上位時代

女性上位時代

  • カトリーヌ・スパーク
Amazon

★★★★

ピチピチの若さで未亡人となったミミ(カトリーヌ・スパーク)。夫が密かにマンションを隠し持っていたことを知る。そこは特殊性癖を満たすためのヤリ部屋だった。部屋にはSMの記録映像が残されている。ミミは性の世界を探究すべく男たちを次々と誘う。やがて放射線科医のカルロ(ジャン=ルイ・トランティニャン)と出会い……。

タイトルの「女性上位」とはミミが男性におんぶされたり、馬乗りになることで快楽を得ることを指している。他にもイメクラで行われるような特殊性癖がいくつも出てきた。本作を観て思い出したのが谷崎潤一郎痴人の愛』【Amazon】で、あの小説でもヒロインが男の背中に馬乗りになっていた。1925年にあれを書いた谷崎はすごい。本作を40年も先取りしている。

馬乗りの歴史は古代ギリシアアリストテレスまで遡れるらしい。高級娼婦フィリスに魅了されたアリストテレスが、彼女に馬乗りにされた挙げ句鞭打たれたのだという。ただし、古代にこの逸話はなく、初出は中世だとか。おそらく相当昔から「女性上位」という概念があったのではないか。男性優位の社会において女性に支配されることは倒錯した喜びがある。古代人も現代人も本質的には同じなので、性癖も今と大差なかったはずだ。SMは確実にあっただろうし、マニアックな特殊性癖もあっただろう。「女性上位」は古代と現代を繋ぐミッシングリンクである。そう考えるとわくわくしてきた。

本作において性の探究を行うのはヒロインのミミである。従って、「女性上位」で快楽を得るのもミミだった。女性を性の主体にしたところが古代ギリシアと違うところで、これは60年代における「性の解放」を反映しているのだろう。60年代は経口避妊薬の登場で性革命が起きた。妊娠のリスクが減り、性の探究がしやすくなった。テクノロジーの進歩によって女性も安心してフリーセックスを楽しめる。ミミが「性に目覚めた天使」として冒険できたのも経口避妊薬のおかげであり、実際にこういうことがあってもおかしくないと思わせる。そこはサドの著作との大きな差だ。やはり人類の歴史において経口避妊薬の発明は重要である。

印象的なのが、カルロとのドライブ中に助手席のミミが次々と服を脱いでいくシーン。最終的にはパンツ一丁になった。面白いのはそこからガソリンスタンドに寄るところだ。店員は目を丸くして彼女を見ているし、いつの間にか見物人が車の周りを取り囲んでいる。変態とは他者のまなざしによって初めて変態と認識される。このシーンはミミの変態ぶりを跡づけるものだった。

本作はカトリーヌ・スパークのファッションショーのような映画であり、とにかく色々な服を着ている。どれも一般人が着たら似合わないようなお洒落な服で、デザイナーの強烈な主張に負けていない。まるでモデルのようである。どれもハイセンスでセレブ感がとても良く出ていた。カトリーヌ・スパークに匹敵する女優はオードリー・ヘプバーンしかいないだろう。美しいものが見られて目の保養になった。