海外文学読書録

書評と感想

『J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル』(2023)

★★★

ジャニー喜多川の性犯罪についてのドキュメンタリー。ジャニーズ事務所を通して日本の芸能界を支配していた喜多川は、所属する少年たちを性的虐待していた。ジャーナリストのモビーン・アザーが来日して関係者に取材する。

見逃し配信が4月18日までなので、見たい人は早めに見るべき。BBC WORLD NEWSはプライム・ビデオの有料チャンネルだが、初登録から14日間は無料で視聴できる。

イギリスと日本では少年への性的搾取について重みが違うように見えた。日本の場合、少女への性的搾取は重罪として裁かれるのに対し、少年への性的搾取はなあなあで済まされている。それが証拠に2016年まで男性への性犯罪は法律で裁けなかった。男性と女性は非対称だったのである。世間も少年への性的搾取には冷たく、町の人達たちはインタビューを受けた際、今更追求すべきではないと突き放している。日本における男性差別は根深かった。ホモセクシャル少年愛は日本の風土として許されている。これはおそらく男性に妊孕性がないからだろう。いくらレイプされても妊娠することはない。それが被害を軽く見ることに繋がっている。

ジャニー喜多川の悪質な点はグルーミングに長けているところだ。彼は少年たちを手なづけている。インタビューを受けた被害者たちは、被害を語りながらも喜多川への愛を表明していた。特別な絆を感じていた。だから被害を被害だと思ってない。被害感情よりも感謝の気持ちのほうが大きいのである。外から見たら喜多川は「悪」そのものだが、内側にいる人にとっては自分を引き立ててくれる恩師だった。実際、ジャニーズ事務所に所属していた間は夢のような時間を過ごせたようである。このように被害を曖昧にさせるグルーミングは極めて悪質で、犯罪を犯罪として立件できない事実がもどかしくなる。

1999年に『週刊文春』がジャニー喜多川性的虐待を告発する記事を出した。喜多川とジャニーズ事務所は記事が名誉毀損であるとして民事訴訟を起こした。裁判の結果、所属タレントへの性的虐待が認定された。大変けっこうなことである。ところが、大手マスコミはこぞって沈黙していたし、喜多川は刑事告訴もされなかった。喜多川の性的虐待は大手マスコミとの結託によって成り立っていたのだ。喜多川の問題は菊タブーに匹敵するタブーとして扱われ、今日にまで至っている。このドキュメンタリーもNHKが放送すべきだが、きっと黙殺されることだろう。日本のメディアの腑抜けぶりには呆れるしかない。ジャニーズ事務所を神のように恐れている。

繰り返しになるが、見逃し配信が4月18日までなので、見たい人は早めに見るべき。日本の地上波では絶対に流せないから貴重である。