海外文学読書録

書評と感想

ユッシ・エーズラ・オールスン『特捜部Q―キジ殺し―』(2008)

★★★

コペンハーゲン警察。カール・マーク警部補のデスクの上に解決済みと思われたある事件の書類が置かれていた。それは20年前に起きたラアヴィー殺人事件のもので、犯人は自首して現在服役している。カールとアサドが捜査をすると、寄宿学校出身のエリートたちが被疑者として浮上してきた。彼らはデンマーク経済の中枢にいる。一方、ホームレスの女性キミ―はそのエリートたちをつけ狙っており……。

追い出されるようにして家をあとにすると、キミーは邸宅街で文字通り路上に立っていた。赤ん坊を小脇に抱え、血がしみこんだナプキンを股にはさんで、たったひとつ悟ったことがあった。自分に性的暴行と屈辱を与えた者はひとり残らず、その償いをする日が来るだろう。(Kindleの位置No.6068-6070)

『特捜部Q―檻の中の女―』の続編。

長大なわりに最後まで読ませるのは、捜査する側だけでなく、犯罪グループの動きも平行して書いているからだろう。この犯罪グループは寄宿学校出身のボーイズクラブで、学生時代から密かに暴力事件を起こしていた。彼らは『時計じかけのオレンジ』【Amazon】のような不良グループに憧れている。メンバーたちは暴力を振るうことに快感をおぼえているのだった。

ここに有閑階級の本質が見て取れる。資本主義社会において、有閑階級は略奪的文化の担い手である。彼らは弱者から搾取することで富を築いてきた。その略奪的文化の中核には抑えがたい暴力性があり、鵜の目鷹の目で犠牲者を探している。彼らは血に飢えた獣のように「狩り」を行っていた。経営者にサイコパスが多いとはよく言われることだけど、本作のボーイズクラブはその典型例だろう。彼らは人を傷つけることに躊躇いがない。それどころか、殺人にまで手を染めている。本作は有閑階級と暴力性を結びつけたという意味で『アメリカン・サイコ』に通じるものがある。

このボーイズクラブと密接な関係にあるのがホームレスのキミーだ。彼女も彼らと同じ寄宿学校出身で、因縁浅からぬ仲だった。そのキミーが警察とは正反対のベクトルからメンバーに迫っていく。結果的には警察とキミーが犯罪グループを挟み撃ちにしていて、一連のプロットは本作最大の読みどころと言えよう。キミーの狂気と執念は並々ならぬものがあり、クライマックスでは英雄と見紛うほどの存在感で屹立している。復讐が動機になっているところは前作と同じだけど、今回は復讐する側に正当性があるところが特徴である。

本作では特捜部Qに新メンバーのローセが加わり、寝たきりのハーディにも転機が訪れる。また、アサドの謎も深まる一方だった。カールのプライベートを構成するヴィガ、イェスパ、モーデンもまだまだ余白になっていて、シリーズものとして先が気になるような作りになっている。