海外文学読書録

書評と感想

デヴィッド・リンチ『ツイン・ピークス/ローラ・パーマー最期の7日間』(1992/米=仏)

★★★

ワシントン州ディア・メドウで17歳の少女テレサ・バンクス(パメラ・ギドリー)が殺害される。その事件は未解決事件になった。1年後。ワシントン州ツイン・ピークス。17歳の少女ローラ・パーマー(シェリル・リー)は、性的に奔放でおまけに麻薬を常用している。彼女はテレサ・バンクスに似た容姿をしていた。ローラはボブという謎の男に怯えており……。

テレビドラマ『ツイン・ピークス』の劇場版。

ローラが動いてるだけでも新鮮だった。というのも、テレビドラマでは冒頭から死体だったので。彼女がどういう人物なのかは周囲の証言でしか分からなかった。ところが、本作ではローラの人生を一個のドラマとして見せている。ローラってこんな人物だったのか、という驚きがあった。

ローラはこの世界の秘密をけっこう知っていたようで、ボブのことを危険人物と認知しているし、赤い部屋のことも何となく分かっているようだった。ローラは性的に奔放で麻薬の常用者だけど、本作の段階では人生をエンジョイしてるようには見えない。不可避的な運命を悟っているせいか、男遊びもやけっぱちでどこか悲壮感が漂っている。不良少女であることには間違いないものの、殺されるほどの巨悪ではなかった。

デヴィッド・リンチ村上春樹は似たようなメソッドで物語を構築している。たとえば、本作のボブは村上がしばしば描く異界の「悪」である。「悪」としか言いようがない純粋な悪。その成り立ちは不明で、問答無用といった感じの存在だ。リンチの映画も村上の小説も、現実世界と幻想世界が繋がっているところがポイントだろう。人智の及ばないものは人間の理屈では解明できない。だから、それに対抗するように登場人物は幻想世界から事件のヒントを拾ってくる。しかし、それでもこの世界の理を完璧に理解するのは不可能なのだ。世の中には理解できないからこそ面白いものがあり、そのことをリンチと村上はよく分かっている。

文学にせよ映画にせよ、読解はしても考察はしないというのが楽しむコツではなかろうか。意味不明なものは意味不明なものとしてそのまま受け入れる。変に考察して意味を付与してしまうと、物語の奥行きが損なわれてしまう。だいたい考察なんて牽強付会な辻褄合わせにすぎないではないか。僕はそのことを『エヴァンゲリオン』【Amazon】ブームのときに思い知った。当時は猫も杓子も考察考察でうんざりしていたのだ。そんなわけで、僕はなるべく無理筋な考察をしないよう心がけている。

冒頭でデズモンド特別捜査官(クリス・アイザック)が素っ頓狂なアブダクションを用いて捜査に着手している。ところが、結果的にそれは正しい道を示していた。このエピソードはシャーロック・ホームズのパロディで、本作の世界観をひと目で分からせている。このような人を食った設定が本作の魅力だろう。