海外文学読書録

書評と感想

フィル・ロード、クリストファー・ミラー『LEGO ムービー』(2014/米=豪=デンマーク)

★★★

レゴワールド。魔法使いのウィトルウィウスモーガン・フリーマン)が、おしごと大王(ウィル・フェレル)によって最強の武器スパボンを奪われてしまう。ウィトルウィウスは「選ばれし者」が世界を救うと予言する。8年半後、建設作業員のエメット(クリス・プラット)が、工事現場で謎の美女(エリザベス・バンクス)と遭遇する。彼女を追いかけて不思議な世界に迷い込んだエメットは、おしごと大王の手下に捕らえられてしまう。エメットは手下に「選ばれし者」と疑われ……。

ストップモーション風のCGアニメ。とにかくレゴワールドの世界観が最高だった。建物や乗り物、果ては風景に至るまで、レゴブロックの組み合わせでできている。当然、キャラの動きもレゴっぽい。あの独特のカクついた動きは癖になる。僕は子供の頃、親がレゴのパチもんしか買ってくれなかったので、テレビのCMで流れていたレゴには憧れを抱いていた。幼い僕にとってあのおもちゃは高嶺の花だった。大人になった今では執着心も消えたけれど、本作を観て当時の気持ちが呼び起こされた。やはりレゴはいい。大人の愛好家が世界中に存在しているのも頷ける。

本作にはバットマンやスーパーマンといった有名ヒーローが出てくるけれど、主人公はあくまで平凡な建設作業員である。見るからにモブキャラだし、悪役からも面と向かって「地味」と言われるほどだ。知略に長けているわけでもなければ、武勇に秀でているわけでもない。脇役に埋もれてしまうくらい地味である。こういう図式って、『三国志演義』【Amazon】や『水滸伝』【Amazon】といった中国の古典文学に近いかもしれない。『三国志演義』では主人公の劉備よりも関羽張飛諸葛亮といった脇役のほうが目立っているし、『水滸伝』では主人公の宋江よりも魯智深李逵呉用といった脇役のほうが目立っている。こういうパターンって、西洋のエンタメではあまり見かけないかも。言ってみれば、大いなる空白である。ただ、本作の場合は「何の特徴もない作業員でもヒーローになれる」というメッセージを掲げていて、この辺はレゴの商品哲学が反映されている。つまり、余分なパーツなんてひとつもないということだ。この世界では誰もがヒーローになる資格を持っている。

レゴの魅力は固定ではなく流動にある、というのも本作のメッセージだろう。常に創造を続け、常に変化を続ける。だから接着剤での固定は否定される。それは人生と同じで、我々も創造と変化を続けながら前に進んでいく。レゴの哲学って意外と深いのかもしれない。