海外文学読書録

書評と感想

『ツイン・ピークス』(1990-1991)

★★★

ワシントン州の田舎町ツイン・ピークス。ある日、ローラ・パーマーという女子高生の他殺体が発見された。FBIのデイル・クーパー特別捜査官(カイル・マクラクラン)が事件の捜査のために派遣されてくる。彼は夢や幻から着想を得て捜査を進めていくのだった。一方、地元では製材所の売却を巡るごたごたやカナダからの麻薬の密輸など、いくつかのトラブルがあり……。

全2シリーズ30話。

架空の田舎町を舞台にした群像劇である。ローラ殺人事件を追っていた前半は面白かったものの、事件が解決してサイコパスと対峙する後半になって失速していた。後半はデヴィッド・リンチとマーク・フロストが製作から離れ、最終話のときだけ戻っている。前半は無類の面白さだったので、当初の構想のまま撮っていたら傑作になっただろう。このドラマ、世論に押されてもったいないことをしたと思う。

本作の魅力は幻想文学を実写化したようなオカルティックな要素で、夢や幻を元に捜査を進めているところだ。通常の刑事ものだったらまずあり得ない展開である。というのも、探偵行為とは理性の行為であり、論理と証拠で虚妄や迷信を打ち破っていくものだから。ところが、本作はその因果関係が逆なのだ。証拠よりも夢や幻が重視される。そして、結果的には夢や幻が探偵役を正解に導いている。さらに、精霊や宇宙人の存在も示唆されていた。このように理性と非理性を逆転させたところが本作の魅力で、デヴィッド・リンチの本領が発揮されている。

群像劇もまあまあ面白い。見るからに人を殺しそうな強面男、策略を巡らせる町の名士、「きれいな花には毒がある」を地で行く美女など、癖のある人物が多かった。とにかくみんなアクティブで、めいめいが余計なことをしては事態をこじらせている。連続ドラマの利点は、見ていくうちにこれらの人物に愛着を抱くところだ。ドラマを通じて各人の状況が変わり、人間関係も変わっていく。その終着点はみな劇的だ。登場人物の変化を楽しむという意味で、群像劇は最高の作劇法と言えるだろう。

フーダニットで引っ張った前半に比べると、サイコパスを前面に出した後半は牽引力でだいぶ劣っている。後半は下手したらドラマの視聴を断念しそうなくらいだ。オカルティックな要素も控えめになり、ドラマはリアリズム路線に舵を切っている。あらかじめ敵が分かっていると、よほどその人物が魅力的じゃない限り興味が持続しない。本作のサイコパスは当時としてはおそらく頑張っているほうだけど、今見るとよくいるサイコパスとしか思えず、視聴者を引きつけるにはいまいちパンチに欠ける。時代の制約だから仕方がないとはいえ、前半のあの犯人から後半のこのサイコパスは随分と格が落ちていた。

デヴィッド・リンチとマーク・フロストが帰ってきた最終話はぶっ飛んでいて、あのダークなオチは最高だった。この意外性は『オッド・タクシー』【Amazon】に通じるものがある。