海外文学読書録

書評と感想

石井輝男『黄線地帯』(1960/日)

★★★

殺し屋の衆木(天知茂)が依頼によってターゲットを殺害するも、依頼人にはめられてパトカーに追われることになった。衆木はダンサーのエミ(三原葉子)を人質にとって東京から神戸に向かう。一方、エミの恋人・真山(吉田輝雄)は数々の手がかりから彼女が拉致されたのを知り、神戸まで追いかけていくのだった。やがて3人は人身売買が横行する黄線地帯へ。

全体的にどうってことのない話だけど、殺し屋の人物像が面白かったりカスバのセットが凝っていたり、それなりに見所があった。滅びの美学を感じさせるラストもいい。昔の映画って余計なエピローグを入れずにバッサリ終わらせるから潔いと思う。このほうがかえって余韻があるし。ただ、ヒロインがあまり魅力的じゃないところが玉に瑕だろうか。正直、弓子役の三条魔子のほうがふさわしかった。

殺し屋は当初ニヒルな印象だったけれど、途中から思わぬ激情を見せていて、その多面性が興味深かかった。序盤は「女の約束と貞操を信じる奴は低能だ」なんてキザなセリフを吐いていたのである。それが資本家に対してだと、「あいつら札束という弾丸で好き勝手してるんだ」と一転して熱くなっている。殺し屋は孤児院出身のせいか、貧乏人を食い物にする資本家には相当な敵愾心を抱いているのだ。実は殺害したターゲットのことも、「大衆の生き血を啜っている悪党」だと思っていた。だから依頼を引き受けたのである。殺し屋は殺し屋なりに正義感があり、決して金ではなびかない。殺人者でありながらもヒーローになる資格を持っている。

そんな殺し屋が黒幕を射殺するシーンは爽快だ。この黒幕ときたら表の顔は慈善家だけど、裏では人身売買に手を染めていた。貧乏人を泣かしている鬼である。殺し屋は怒りを込めて弾丸をお見舞いする。このように無慈悲に悪を成敗するところは必殺仕事人みたいで迫力がある。

殺し屋に拉致されたエミはよく機転が利く女で、駅のホームにハイヒールを放り出して恋人に危機を知らせたり、百円札にメッセージを書いて周囲に助けを求めたり、突然拉致されたわりには肝が座っている。面白いのは、百円札が次から次へと持ち主を変えていくところだろう。追いかける恋人はその持ち主を逆に辿っていくことで殺し屋たちに接近する。これはよく出来たプロットだと思う。

狭い道が入り組んだカスバのセットはかなり気合いが入っている。当時の日本だったら本当にこういうドヤ街がありそうだ。闇市的な猥雑さが自然な形で表現されている。また、クラブやホテルの内装も独特の味わいがあって良かった。本作はこの部分だけでも一見の価値がある。