海外文学読書録

書評と感想

アンジェイ・ワイダ『世代』(1955/ポーランド)

世代 (字幕版)

世代 (字幕版)

  • タデウシュ・ウォムニツキ
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★★★

ドイツ軍占領下のポーランドワルシャワ近郊に住む少年スタフ(タデウシュ・ウォムニツキ)は、仲間たちと石炭盗みに明け暮れていた。スタフはセクワ(ヤヌーシュ・パルシュキェヴィッチ)という木工職人と出会い、彼の伝手で親方に弟子入りする。ある晩、スタフはドロタ(ウルシュラ・モドジニスカ)という女性活動家のアジ演説に遭遇。それを聞いて反ナチ抵抗運動に身を投じる。

一見すると共産党を賛美していてまるでプロパガンダ映画みたいな印象だけど、よく考えたらこれはプロレタリア文学の映画版なのだろう。共産党は戦時中、全体主義に対する抵抗勢力として活動していた。それを忠実に映画化するとこうなるわけだ。実のところ、僕はカール・マルクスマルクス経済学も嫌いではない。また、日本共産党だって野党としては優秀でその存在価値は認めている。しかし、ソ連や中国のせいで赤い連中への印象がだいぶ悪くなっており、絶対に与党にしたくないという強い拒否感がある。共産党が掲げる理想は素晴らしい。その反面、現実では一党独裁の恐怖政治で人々を苦しめてきた。このように共産党に対する僕の評価は真っ二つに引き裂かれている。何とも複雑な気分で本作を観た。

全体の骨子はスタフの成長物語になっていて、死者や逮捕者が出るわりには後味がいい。一介の悪ガキが、人生の目標を得て政治活動にのめり込んでいく。人民防衛隊への参加を拒否しつつも自らを共産主義者と標榜した若者に対し、「共産主義者は闘う者だ」と言い放つところは正直言って格好良かった。その一方、彼には悪ガキらしい無鉄砲な一面もあって、復讐のために4人でドイツ兵を襲撃して射殺している。下手したら足がついて組織が崩壊しかねないのに、後先考えずに行動を起こしたのだ。このような蛮勇は良くも悪くも若者の特権で、僕には彼らの若さが眩しかった。

映像的には狙った構図がいくつかあって、その最たるものがスタフとドロタが最初に接触するシーンだろう。結婚式を背景にしているのは、明らかにその祝祭ムードに2人の出会いを重ねている。さらに、そこからハート型の写真パネルに収まる構図は、祝祭ムードを念押ししているようだった。後に2人は恋仲になるわけで、一連のシーンはそれを先取りしているのである(写真パネルから一瞬でドロタが外れるのは、2人がすぐに離ればなれになることを暗示している)。この監督、意外とベタなことをやっていて面白い。