海外文学読書録

書評と感想

ジョン・フォード『駅馬車』(1939/米)

駅馬車(字幕版)

駅馬車(字幕版)

  • ジョン・ウェイ
Amazon

★★★

1885年。アリゾナ州トントからニューメキシコ州ローズバーグに8人を乗せた駅馬車が出発する。町から追放された娼婦(クレア・トレヴァー)、アルコール依存症の医者(トーマス・ミッチェル)、身重の貴婦人(ルイーズ・プラット)、貴婦人の護衛を申し出た賭博師(ジョン・キャラダイン)、小心者の酒商人(ドナルド・ミーク)、金を横領している銀行家(バートン・チャーチル)、そして、御者(アンディ・ディバイン)に保安官(ジョージ・バンクロフト)。さらに道中、脱獄囚のリンゴ・キッド(ジョン・ウェイン)も加わる。折しも、近くではジェロニモ率いるアパッチ族が蠢動しており……。

こういう映画はそれぞれ異なる背景を持った人物が集まるだけで面白くなる。人間が狭い場所にひしめくことで関係が生まれ、ドラマが生まれる。とはいえ、全員の魅力を引き出すにはいささか尺が足りなかった。個人的には90分くらいの映画が好みだから、本作もその点では文句のつけようがない。ただ、それでももう少し何とかならなかったかとは思う。もし現代で本作みたいな映画を作ったら、180分の大作になるだろう。行き着く先は『七人の侍』【Amazon】である。そういう映画は気合いを入れないと観れないので痛し痒しの部分はある。

アパッチ族襲撃のシーンはかなり頑張っていた。クローズアップの部分は背景が合成でいくぶんげんなりしたけれども、ちょっと距離を空けたシーンではしっかりスタントを決めている。思うに、馬車と馬の追いかけっこはカーチェイスの原点なのだろう。馬で追ってくるアパッチ族の群れを一人ずつ銃で撃ち落としていく。特にヤキマ・カヌートによる有名なスタントはインパクトがあって、飛び移った馬から撃ち落とされてその上を馬車が通過するシーンは感動的だった。娯楽のためにここまで体を張れるのはすごいことである。

アパッチ族は馬に乗りながらライフルで射撃しているのだけど、これって相当な技量が必要なのではないか。その昔、モンゴル人が世界を席巻したのも、騎射の技術が卓越していたからだった。前漢の時代は匈奴も似たようなアドバンテージを持っていたと思う。本作を観て騎馬民族の底力を思い知った。

脇役の中ではアル中の医者が一番目立っていて、道中、貴婦人の出産を助けて集団の尊敬を勝ち取っている。さらに、終盤では酒場で散弾銃を持ったならず者に立ち塞がり、相手から銃を取り上げたのだった。なぜ彼がこんなに優遇されていたのか分からない。イケメンの賭博師なんて、ナイト気取りのわりには大して活躍しなかったし。この辺りは当時の俳優の力関係が反映していたのかもしれない。

ジョン・ウェイン演じるリンゴ・キッドが、1対3の決闘で勝利するのは出来過ぎだった。決着の場面を映さなかったのは、作り手も無理があると判断したからだろう。一発撃った後は銃声で済ませている。