海外文学読書録

書評と感想

ジョエル・シュマッカー『セント・エルモス・ファイアー』(1985/米)

★★

ジョージタウン大学を卒業して数ヶ月の7人は、セント・エルモス・バーを溜まり場にしていた。弁護士を目指しているカービー(エミリオ・エステベス)、サックス奏者のビリー(ロブ・ロウ)、新聞記者のケヴィン(アンドリュー・マッカーシー)、銀行員のジュールズ(デミ・ムーア)、共和党議員の元で働くアレック(ジャド・ネルソン)、アレックと同棲しているレズリー(アリー・シーディ)、福祉施設で働くウェンディ(メア・ウィニンガム)。大人になりきれない彼らが騒動を起こす。

80年代を代表する青春映画。日本のトレンディドラマ『愛という名のもとに』【Amazon】の元ネタらしい。この手のドラマには疎いので何だけど、僕は『ビバリーヒルズ青春白書』【Amazon】を連想した。雰囲気がとてもよく似ている。

登場人物がみんなモラトリアムを引き摺っていて、やることなすことすべてが痛々しかった。これは偏見だけど、京都のシェアハウス界隈がこんな感じなのだと思う。社会に適応せず、仲間内で騒いで終わらない青春を夢見ている。こういう人たちはもはやマイノリティなわけで、「早く大人になれるといいね」とお祈りするばかりである。

本作には色々エピソードがあったけれど、一番面白かったのはレズリーを巡る三角関係だった。レズリーは当初アレックと付き合っていた。しかし、途中で喧嘩別れしてしまう。その後、彼女はケヴィンの元に転がり込み、2人はセックスする。ケヴィンはレズリーに対して密かに恋心を抱いており、その想いを彼女に伝えるのだった。ところが、レズリーは彼の告白を拒絶し、「セックスと愛は別」と言い放っている。レズリーはアレックのことを忘れるためにセックスしたのだった……。この女、結果的に2人の男を手玉に取っていてかなりの曲者だと思う。

さらにもうひとつ。仕事をクビになったジュールズが、部屋に立てこもってメンヘラムーブをかますところも見所だ。このエピソードでは仲間が全員集合してドタバタ騒いでおり、映画全体のクライマックスになっている。そしてラストでは、それぞれの問題を解決した7人が、いつものセント・エルモス・バーに入らず、別の酒場に向かう。これはモラトリアムの終焉を意味しているのだろう。この映画、最初は「痛い連中だなあ」と呆れながら観ていたけれど、終わり方が予想外に爽やかでカタルシスがあった。青春ドラマの楽しみ方が分かったような気がする。

本作は80年代テイストが色濃く、現代人が真面目に観るにはなかなかきつい。しかし、曲がりなりにも一世を風靡した映画なので、教養として割り切るなら観ても損はしないだろう。