海外文学読書録

書評と感想

藪下泰司、芹川有吾『安寿と厨子王丸』(1961/日)

★★★

安寿(佐久間良子)と厨子王丸(住田知仁)の父・岩城判官正氏(宇佐美淳也)が、鬼倉陸奥守(三島雅夫)の讒言によって罪を被せられてしまう。残された家族が都へ直訴に向かうも、安寿と厨子王丸らは人買いの手に落ちるのだった。姉弟は山椒太夫東野英治郎)の家に売られ、そこで強制労働させられる。

舞台は藤原師実が関白だった時代なので、1075年から1086年と推定される。つまり、平安時代だ。

元になった説話はもっとえげつないのだけど、本作は子供向けなのでマイルドにされている。安寿は焼印を押されないし、山椒太夫は処刑されない。

可愛い動物が人間みたいな振る舞いをしているのは、昔のアニメのお約束である。本作でも姉弟のお供にイヌとクマとネズミがついていて、コミカルな動きを見せている。おそらくこれは『桃太郎』【Amazon】の変奏で、イヌ・サル・キジを置き換えたものに違いない。特に厨子王丸には動物の加護があって、山椒太夫の元で芝刈りをするに当たっては、リスやスズメに協力してもらっている。これは父・岩城判官正氏が、森を守る職業であるのと関係しているのだろう。厨子王丸には、動物と共生する能力が血筋として備わっている。

本作は水の役割が面白くて、善玉と悪玉に対してそれぞれ違った働きをしている。姉弟のお供をしていた菊乃(利根はる恵)は、船から海に転落してしまうのだけど、海底で人魚に転生する。また、厨子王丸を逃した安寿は、絶望して入水自殺を図るのだけど、すぐさま白鳥に生まれ変わる。このように、善玉に対して水は死と再生の役割を担っているのだ。一方、悪玉に対しては無慈悲で、追手は橋から川に転落して流されているし、人買いは渦に巻き込まれて海の藻屑になっている。動物といい、水といい、自然が安寿たちの味方になっているような感じだった。

山椒太夫の次男(水木襄)といい仲になった安寿は、それを悪人に疎まれ、髪の毛をバッサリ切られてしまう。平安時代は長い黒髪が女の美しさを象徴していたので、これは女としての価値を毀損する行為だ。「髪は女の命」というくらいだから、相当残酷な仕打ちなのだろう。ショートボブがクールとされる現代とは意味合いがまったく違う。まるで安寿が焼印を押されない代償のようで、その作劇の仕方が興味深かった。