海外文学読書録

書評と感想

藪下泰次『少年ジャックと魔法使い』(1967/日)

★★★

動物たちと仲良く遊んでいた少年ジャック(中村メイコ)が、悪魔の少女キキ(中村メイコ)によって魔女グレンデル(山岡久乃)が住む古城に連れてこられる。グレンデルは世界中の子供たちを悪魔製造機にかけて悪魔にしようとしていた。ジャックは敵だったキキを助けることになり……。

『ベーオウルフ』【Amazon】を下敷きにしてるらしい。

キャラデザがカートゥーン風になっていて面食らったものの、古城をはじめとする美術がなかなか良かった。魔女が暮らすゴシックの世界。ジャックが旅するサイケデリックな世界。キキが閉じ込められる氷の世界。極めつけはジャックとグレンデルが戦う幻想世界で、ここは言葉で表現するのが難しい不思議な世界だった。こういう映像ならではの表現にチャレンジしたところはとてもいいと思う。子供っぽいキャラデザに反して野心的な作品と言えるのではなかろうか。

見るからに少年のジャックが、軽快に自動車を運転しているのには笑ってしまった。その後、動物たちも運転していて、これは何でもありの世界だと納得させられる。そもそもこの映画、グレンデル以外は大人が一人も出てこないのだけど、これは子供のためのユートピアを表現しているのだろう。存在するのは子供と動物だけで、彼らは始終遊んで暮らしている。唯一の大人であるグレンデルは憎むべき敵で、彼女は子供たちを悪魔に変えて隷属させようとしている。そして、ジャックはそんなグレンデルを倒すのである。本作には大人からの解放が潜在意識としてありそうな気がする。

本作が公開された年はちょうどサイケデリック・ムーブメントの全盛期だ。それが子供向けのアニメにまで波及しているのはすごいことである。劇中でジャックが彷徨うことになる植物をベースにした世界は、明らかにLSDを示唆しており、当時は大人から子供までサイケデリックな世界に親しんでいたことが見て取れる。1960年代。世界中が幻覚に溺れた幸せな時代だった。僕もこの頃にタイムスリップしたいと思う。

ところで、昔のアニメ映画には人間化した動物がやたらと出てくる。彼らは動物の格好をしながらも、人語を話したり、二足歩行したり、可愛らしいマスコットとして画面を賑わせている。このテンプレートは現代まで続いているけれど、発想の大元がどこにあるのかちょっと気になるのだった。