海外文学読書録

書評と感想

ハワード・ホークス『赤ちゃん教育』(1938/米)

★★★

動物学者のデヴィッド(ケーリー・グラント)が3年の月日をかけて恐竜の骨格を組み立て、残り肋骨1本というところまでこぎつける。デヴィッドにはパトロンの未亡人がおり、成り行きから彼女の顧問弁護士とゴルフをすることになった。しかし、それをスーザン(キャサリン・ヘプバーン)に妨害され、彼女の元に届いた豹を交えてドタバタに巻き込まれる。

予想以上にぶっ飛んだコメディで、目まぐるしく状況が変転するところは圧巻だった。正直、そんなに笑えるシーンはないのだけど、とにかく登場人物がやたらと騒がしく、また話の転がし方が堂に入っている。本作の何がすごいって、話が進むにつれて状況が混迷していくところだ。終盤では関係者のほとんどが拘置所に入れられていて、まさに物語が崩壊寸前といった趣である。ここからどうやって大団円に持っていくのだろう? と気を揉んだのだった。

豹が出てくるところも意味不明だ。劇中に「豹いらない?」「何で豹なんだ?」というやりとりがあるけれど、これは観客も同じ気分だろう。しかもこの豹がよく調教されていて、人間と滞りなく共演できている。本作といい、『モンキー・ビジネス』といい、動物が好演するコメディはモノクロの時代から作られていたのだ。とりわけ驚くのが犬と豹の決闘シーンで、これをどうやって撮ったのか、つまり、動物にどうやって演じさせたのか見当もつかない。ガチで決闘したら犬が殺されるはずだから、お互いに手加減してるはずである。しかし、ただジャレついているわけでもなく、一応は馴れ合いなしの戦いのように見える。これも調教の成果なのだろうか。いずにせよ、この時代から猛獣の訓練方法は確立されていたようである。

ケーリー・グラントは床ですっ転んだりコートを破られたり、三枚目の役をしっかり演じていた。キャサリン・ヘプバーンもトチ狂った娘をきっちり演じている。ケーリー・グラントは黒縁の眼鏡をかけているのだけど、終盤でそれが壊れて裸眼になる。つまり、三枚目から二枚目へと外見が変貌する。これによって彼のイケメンぶりが衆目に晒されると同時に、ヒロインとのロマンスに弾みがつくのだから心憎い。映画において小道具の使い方は重要だと思った*1

ケーリー・グラント演じるデヴィッドには婚約者がおり、物語は結婚前夜から当日を舞台にしている。従って、キャサリン・ヘプバーン演じるスーザンと結ばれるには相応の手続きが必要だ。しかし、本作ではそのコンフリクトを一瞬で解消してしまうのだから驚く。大団円に持っていくロジックに凄みがあった。

*1:諏訪部浩一ノワール文学講義』【Amazon】によると、序盤で失われる恐竜の骨はファリック・シンボルであり、主人公の「男らしさ」が徹底的に解体されているという。