海外文学読書録

書評と感想

ウィリアム・ワイラー『我等の生涯の最良の年』(1946/米)

★★★★

第二次世界大戦終結。ブーンシティに3人の兵士が帰還してくる。元陸軍軍曹のアル・スティーブンソン(フレドリック・マーチ)、元空軍大尉のフレッド・デリー(ダナ・アンドリュース)、水兵のホーマー・パリッシュ(ハロルド・ラッセル)。アルには20年連れ添った妻がおり、フレッドには出征20日前に結婚した妻がいる。ホーマーには婚約者がいたが、彼自身は負傷して両手とも義手になっていた。フレッドは復員後の就職に難儀し、ホーマーは障害者の境遇に負い目を感じている……。

いやー、これはすごい。復員兵の物語を通して、戦争とは何なのかを考えてしまった。言うまでもなくアメリカは戦勝国だけど、みんながみんな浮かれていたわけではない。復員しても就職できない人はいるし、障害を負って苦しんでいる人もいる。男女関係だって元の通りにはいかない。経済事情の悪化によって妻の本性が現れ、そのまま結婚の危機を迎えている。戦争をすると、勝っても負けても同じ生活には戻れないのだ。総じてマイナスからの再スタートになっていて、あの苦労は何だったのかと思ってしまう。

戦時中のフレッドは将校だったけれど、出征前はドラッグストアでソーダ・ジャークをしていた。一方、彼より階級が下のアルは、出征前は銀行員を勤めており、経済的にも地位的にも恵まれている。このように戦時と平時とで立場が逆転するのは、当事者としてはなかなか複雑だろう。たとえ将校でも復員したら一般人であり、しがないソーダ・ジャークという立場に甘んじなければならない。僕がフレッドだったら、相当な屈辱を感じたはずだ。自分は将校にまでなったのだから、然るべき職に就けてもいいはずだ、と。しかし、戦場での任務は何のキャリアにもならないのだった。今だったら復員兵向けに軍が職業訓練をしただろうけど、当時はそういう制度がなかったのだから厳しい。国のために命を賭けてもステップアップできず、ただただ無為な日常に埋没していく。戦争とはホント罪深いと思う。

障害者になったホーマーは、自分が健常者と変わらないことを周囲に認めさせようとして空回りしている。書類には自分でサインしているし、他人がタバコを吸うときは進んで火をつけようとしている。しかし、彼にもできないことはあって、たとえば着替えには人の助けが必要なのだった。ホーマが自覚すべきは、自分が五体満足な人間ではなく、生活するうえで困難を抱えていること。それを受け入れて人の助けを遠慮なく乞うことだろう。自分の弱さと向き合い、愛する人にありのままの自分をさらけ出す。ホーマーの物語はそういう成長譚でとても感動的だった。

銀行の副頭取に昇進したアル。妻と別れて再スタートを切ったフレッド。結婚式に臨むホーマー。3人とも祝祭的な雰囲気のなかで大団円を迎える。物語としてはいささか出来すぎだけど、しかし、それくらいの希望がないとやってられない時代でもあるのだろう。戦争は終わっても人生は続く。日常に帰ることがいかに尊いかを身にしみて感じた。