海外文学読書録

書評と感想

ヴィンセント・ミネリ『バンド・ワゴン』(1953/米)

バンド・ワゴン(字幕版)

バンド・ワゴン(字幕版)

  • フレッド・アステア
Amazon

★★★

トニー(フレッド・アステア)はミュージカル映画のスターだったが、最近は落ち目で仕事がなかった。そんな彼が友人夫婦の紹介で舞台の主演を務めることになる。演出のコルドヴァ(ジャック・ブキャナン)はバレリーナのギャビー(シド・チャリシー)をヒロインとしてスカウトするも、トニーとギャビーは誤解から仲が険悪になるのだった。

本作を観て分かったのだけど、どうも僕はフレッド・アステアよりもジーン・ケリーのほうが好きなようだ。というのも、同じ監督だったら『巴里のアメリカ人』のほうがワンランク上だと思ったし、同じバックステージものだったら前年の『雨に唄えば』【Amazon】のほうがツーランクは上だと思ったのである(どちらもジーン・ケリーが主演)。アステアは愛嬌があるし、ダンスも上品でつい見入ってしまう。けれども、俳優として何かが足りないとも思うわけだ。通常の演技をしているアステアは、気のいいおじさんという感じで好感が持てる。その反面、彼は小さくてあまり画面映えしない風体だと思う*1。あと、アステアは昔からちょっと老けた感じの人相で、この時代だったらジーン・ケリーのほうが華やかだと感じる。

ミュージカルシーンで一番良かったのが、アステアと靴磨き(レロイ・ダニエルズ)がゲームセンターで踊るシーン。ここは陽気なミュージカルがゲームセンターの雰囲気と合致していて楽しかった。靴磨きがリズミカルにドラミングするところもいいし、アステアが動き回って婦人に叫び声をあげさせるところもいい。このシーンは陽気を通り越して狂気の領域に入りかけていた。

次点はアステアとブキャナンのタップダンス。2人揃ってスローテンポの上品なダンスを披露している。やはりアステアは踊ってなんぼだと思う。

アステアとチャリシーが最後に結ばれるところは複雑で、親子ほど歳が離れているのにこれでいいのかとツッコんだ。いくら何でも慎みがないのではないか、と。その点、『ライムライト』チャップリンはヒロインと結ばれないまま終わっているので安心である。どちらも落ち目の芸能人を扱っているのに、エンディングは対称的なのだから面白い。

*1:ところが、アステアの身長は175cmなのだった。ジーン・ケリーは170cmなので、身長はアステアのほうが高い。