海外文学読書録

書評と感想

ウ・ミンホ『インサイダーズ/内部者たち』(2015/韓国)

★★★

やくざ者のアン・サング(イ・ビョンホン)は、新聞社の主幹イ・ガンヒ(ペク・ユンシク)の弟分として、大統領選を控えるチャン・ピル議員(イ・ギョンヨン)と自動車会社のオ会長(キム・ホンパ)の間に流れる裏金に絡んでいた。一方、検事のウ・ジャンフン(チョ・スンウ)はその事件の捜査をしている。アン・サングは裏金ファイルの扱いに失敗して片手を切り落とされ、ウ・ジャンフンはそんな彼に接近して協力を要請する。

基本的には巨悪を狩るために小さな悪と組むというプロットだけど、終盤ではそれを逆手にとったサプライズがあって、観終わった後の満足度は高かった。最後にタイトルの意味が明らかになる趣向もいい。ただ、観ている間はそんなに面白いとは感じなかったのだから複雑だ。新聞社の主幹が岸部一徳に見えたせいか、どこか日本のドラマを連想したところもある。総じて韓国映画のわりには綺麗すぎたかも。いや、グロいところはグロいし、汚いところはそれなりに汚いのだけど。ただ、僕が韓国映画に求めているのって、アジアらしい泥臭さだったりするので、その辺でちょっと引っ掛かった。無意識のうちにノワールっぽいのを期待していたのかもしれない。

テクノロジーの発展によって手軽に動画が撮影できるようになった結果、それを取り込んで作劇の中核に据えた映像作品が増えた。それはそれでけっこうなことだけど、最近では色々な作品に使われすぎていていささか食傷気味になっている。本作でも決定的な場面を動画に撮影することで一発逆転を達成していて、「おいおい、またかよ」とうんざりした。こういうことがあるから、たまに昔の映画を観て感覚をリセットする必要があるのだ。スマホもケータイもなかった時代の映画。テレビがまだブラウン管だった時代の映画。あるいはもっと遡って蓄音機が最先端だった時代の映画でもいい。とにかく、色々な時代の映画をバランスよく観る。そうすることが飽きない秘訣なのだと思う。

検事のウ・ジャンフンは警察から転職してきた経歴の持ち主で、その背景には韓国社会の暗部が反映されている。警察官のときは学歴がないせいで手柄を横取りされ、検事になってからはコネがないせいで出世できないでいた。こういう風にお国柄が垣間見えるところが外国映画を観る醍醐味だろう。それと、地理的に近いせいか日本と共通する部分もあって、たとえば新聞社の主幹がキングメーカーになっているところは、読売新聞のナベツネを連想した。やくざ者が体にでかい刺青を入れているところも日本と同じである。このように類似点と相違点を発見するのもまた楽しい。

ところで、本作は裏社会を題材にしているのに、なぜか銃が出てこなかった。やくざ同士徒手空拳で格闘しつつ、たまに刃物や斧を持ち出している。この辺の拘りが、日本映画やハリウッド映画と一線を画しているのかもしれない。