海外文学読書録

書評と感想

ジョルジュ・ロートネル『警部』(1979/仏)

★★★

南フランス。当地では汚職警官とギャングが結託して悪事を働いていた。ある警部の死体が上がってきたため、パリからスタン・ボロウィッツ警部(ジャン=ポール・ベルモンド)が招聘される。彼は非合法的な手段で事件を捜査する凄腕だった。ホロヴィッツはセルティという偽名を使ってギャングに接近する。

ジャン=ポール・ベルモンドのアイドル映画。黒い革ジャンを着て(場面によっては茶色いのも着ている)、白いスポーツカーに乗り、でかい拳銃を見せびらかす。ベルモンドは当年46歳。脂が乗り切っている。そんな彼が現実ではあり得ないような破天荒な刑事を演じていて、とにかく立ち居振る舞いが格好いい。彼はすべての男性の憧れの的ではなかろうか。おじさんなのに若い女とベッドを共にしても様になっている。僕もこういうイケオジになりたいものである。

ボロウィッツはギャングに対してギャング的な手法で戦っている。その暴力性は目を見張るものがあった。カジノの一室を爆破しているし、バーに放火しているし、家屋に車で突っ込んでいる。突然人に殴りかかったり、路上教習の車を盗んだり、逮捕されてもおかしくないようなことを繰り返していた。本作は現実のフランスを舞台にしているが、リアリティラインはだいぶ低い。ほとんど漫画のような世界観である。法の執行者たる刑事が法を破りながら捜査する。やってることはほとんどギャングと変わらない。さすがにアイドル映画として割り切らないと見てられないだろう。

アイドル映画の割にはアクションを頑張っている。高所に張られたロープを滑降していくシーンは、落ちたら死ぬという危機感があって迫力がある。ベルモンドはスタントマンを使わずすべて本人が演じているらしい。また、タクシーが階段をバックで降りていくシーンもよく撮ったものだと感心した。降りたあと普通に走ってリアにドラム缶を挟んでいる。一連の流れはCGを使わず実際に行っているわけで、熟練の技を堪能した。

無敵に思えたボロウィッツだったが、彼には14歳の娘がいてそれが弱点になっている。案の定、娘がギャングに誘拐されてしまった。ここからのプロットがなかなか面白くて、ボロウィッツは救出に直接関与しないものの、溜飲の下がる結末に持ち込んでいる。単純な暴力だけでなく、計略を駆使できるところがポイント高い。普通だったら助けてくれた相手にあんなことはしないわけで、刑事仲間から非情さを恐れられているのも納得だった。

ボロウィッツの銃がやたらとでかいのは男性性の誇示だろう。彼はそれを使って人を脅す。しかし、曲がりなりにも刑事が無抵抗の相手に発砲できるわけがない。脅された相手は要求を無視しても命の危険はなかっただろう。観客だってそれを薄々感じている。いくら脅しても撃つ覚悟がなければ意味がない。だから銃を突きつけるシーンはどれも虚仮威しにしか見えなかった。

ボロウィッツ役のジャン=ポール・ベルモンドは、革ジャンやタキシード、カジュアルスーツなど、お洒落に気を使っている。おまけに乗ってる車は白いスポーツカーだった。アイドル映画の面目躍如である。