海外文学読書録

書評と感想

大島渚『儀式』(1971/日)

★★★★★

中年の桜田満洲男(河原崎建三)が、同年代の親戚・輝道(中村敦夫)の死を電報で知る。彼はこれまた同年代の親戚である律子(賀来敦子)と共に、子供時代を過ごした島へ向かうのだった。そして、話は戦後まもない時代へ遡る。桜田家は一度は戦犯とされながらも復権し、満洲男の祖父・一臣(佐藤慶)が当主として権勢を振るっていた。一族の歴史を冠婚葬祭を軸に語っていく。

衝撃的な映画だった。冒頭で満洲男が「日本に帰るとは日本に捕まるということ」と独白していたけれど、まさにその通りの内容である。戦後日本の諸相と家父長制の崩壊を冠婚葬祭を軸に語っているところがユニークで、その着眼点の鋭さに感銘を受けた。親戚というのは、基本的に結婚式や葬式のときしか会えない。逆に言えば、冠婚葬祭に焦点を当てれば、彼らが一堂に会する様子を自然な流れで撮ることができる。上座のど真ん中には祖父が、下座には一族が左右に別れて座っている。こういう古典的な日本の風景が、現代に生きる僕には新鮮だった。

登場人物が一癖も二癖もあって、それぞれ乱脈な振る舞いをしているところが面白い。祖父は誰彼構わず子供を産ませている性欲魔神だし、満洲男は後述する結婚式でキチガイみたいなことをしている。さらに、輝道は叔母さん(小山明子)に筆おろしをしてもらってるし、進(渡辺文雄)は三島由紀夫まがいの決起沙汰に及んでいる。率直に言って、みんな頭がおかしい。けれども、日本の旧家なんてどこもこんな感じなのだろう。淀んだ水たまりのような血筋というか。唯一好感が持てたのが共産党員のおっさん(小松方正)で、彼の愛嬌ある振る舞いは一服の清涼剤だった。思えばこの一族、右曲がりも左曲がりもいて、まさに戦後日本を包摂していると言える。

最大の見所は、満洲男の結婚式だろう。というのも、式の直前に花嫁に逃げられたため、すべての儀式を満洲男一人で行っているのだ。三三九度も一人でやってるし、ウエディングケーキへの入刀も一人。式には親戚のほかに政財界の要人も列席しており、衆人環視のなか黙々と一人で儀式をこなしている。見ていてこれは酷い罰ゲームじゃないかと思った。みんな笑わずにこの茶番を受け入れているし、あまつさえ政治家がスピーチまでしているのだから救われない。この一人結婚式は、一人ディズニーランドよりもハードルが高いだろう。満洲男が終始浮かない顔をしているところが最高に面白く、同情しつつも思わず笑ってしまった。この場面、冠婚葬祭を代表とする儀式の滑稽さを浮き彫りにしている。つまり、儀式とは多かれ少なかれ茶番の要素を孕んでいる。

ところで、本作を観ると『サマーウォーズ』【Amazon】がおそろしく反動的な映画だったことが分かる。大島渚が進めた時計を元に戻してしまった。現代人はああいう大家族に憧れているのだろうか。家父長制に基づく親戚同士の密な関係。僕は勘弁してくれって思うけど。