海外文学読書録

書評と感想

ジョン・ファブロー『シェフ 三ツ星フードトラック始めました』(2014/米)

★★★★★

ロサンゼルス。一流レストランでシェフをしているカール(ジョン・ファブロー)は、大物料理評論家の来店に際して新しいメニューで対応しようとする。ところが、オーナーにいつものメニューを出すよう言われた。しぶしぶ従ったカールだったが、その結果、評論家に酷評記事を書かれてしまう。カールはTwitterで評論家にクソリプを飛ばし、そこから騒動に発展して店を解雇されてしまう。カールは10歳の息子(エムジェイ・アンソニー)とマイアミに行き、中古のフードトラックを買ってキューバ料理の屋台を始める。

よくある親子ものだけど、観ていて幸せな気分になった。キューバ料理を始めとするマイアミの雰囲気が魅力的だし、Twitterをここまで効果的に使った映画も珍しい。

屋台を始めたカールがすごく生き生きとしていて、人生が楽しそうに見える。一流レストランのシェフは手堅い職業だけど、オーナーの意向に従わなければならないから不自由だ。その点、屋台は自営業だから、すべて自分の裁量で仕事ができる。浮き草稼業ではあるものの、安定の代わりに自由を手に入れた。これぞ起業の醍醐味だと思う。やはりリスクを背負ってでも自分のやりたいことで金を稼ぎたい。他人から押し付けられた仕事で神経をすり減らしたくない。人生において自由がどれほど大切なのかがよく分かる。

本作ではTwitterが重要な役割を担っている。カールはこれがきっかけでレストランを解雇されたし、一方で屋台が繁盛する原動力にもなった。人間はネットで情報を発信するとコンテンツになる。一介のシェフに過ぎなかったカールも、Twitterを始めたことでそうなった。笑いものになり、おもしろネタになり、ミームになった。SNSが普及した現代では、一般人でも芸人みたいな振る舞いを強いられる。飯テロ画像を投稿したり、過激なネタツイをしたり、あらゆる手段を駆使していいねとリツイートを稼ぐ。売名のためなら炎上だって辞さない。そうやって他人から注目されることで承認欲求を満たすのだ。僕が見ている界隈では、若い女性が加工した自撮りをアップして、己の価値を恐る恐る確認していた。ただ若いだけが取り柄の虚しいコンテンツたち。Twitterにはそのような承認欲求モンスターたちがひしめいている。

それにしても、デブの作る料理は何であんなに美味そうなのだろう? キューバサンドは見るからに舌がとろけそうだった。これは持論だけど、デブには一定の安心感があると思う。食いしん坊でおおらかで、コミカルな要素を兼ね備えている。デブを見ると微笑ましくなる。デブに悪い人はいないのではないか。もしかしたら僕はデブ専なのかもしれない。