海外文学読書録

書評と感想

ジャック・ドゥミ『ロシュフォールの恋人たち』(1967/仏)

★★★

海辺の街ロシュフォールは2日後に祭りを控えていた。ソランジュ(フランソワーズ・ドルレアック)とデルフィーヌ(カトリーヌ・ドヌーヴ)は双子の姉妹。姉のソランジュは音楽家を、妹のデルフィーヌはバレリーナを志している。2人はパリに出て自分の力を試したいと思っていた。さらに、素敵な恋人にも出会いたいと思っている。街には画家のマクサンス(ジャック・ペラン)に音楽家のアンディ(ジーン・ケリー)、そして、エチエンヌ(ジョージ・チャキリス)とビル(グローバー・デール)の2人組も来ており……。

画面の隅々まで意識が行き渡った本格的なミュージカル映画だけど、いかんせん内容のわりに尺が長すぎるし、歌ってるだけのシーンも多くてダレてしまった。やはりこの手の映画は通常シーンとミュージカルシーンのバランスが大切で、そこはハリウッドに一日の長がある。ひとことで言えば、本作は詰め込みすぎ。せめて歌が主体のシーンは削って、ダンスが主体のシーンを前面に出してほしかった。歌が主体のシーンは退屈極まりない。

原色の衣装を着た役者たちが複数でダンスをするシーンはどれも素晴らしい。ジーン・ケリー、ジョージ・チャキリス、グローバー・デール、そしてモブのみなさんは動きがキレキレである。しかも、画面の奥にいて思わず見落としてしまうような人たちも、よく見ると一所懸命に踊っている。画面の隅々まで意識が行き渡っている。ミュージカルは歌よりも踊りのほうが肝要だと再確認した。

橙色のシャツに赤いネクタイのジョージ・チャキリス。水色のシャツに青いネクタイのグローバー・デール。ピンクのワンピースのカトリーヌ・ドヌーヴ。紫のワンピースのフランソワーズ・ドルレアック。メインキャラだと、この4人によるミュージカルシーンが印象に残っている。衣装の色合いがケバケバしくていい見栄えだった。

ところで、アメリカでは「ミュージカル好きの男性はゲイ」というステロタイプがあるようだけど、確かにその見方は一理あるかもしれない。というのも、多くのミュージカルは愛だの恋だのを歌や踊りで表現しているから。ほら、こういうのってスイーツ女子が好きそうじゃん。恋愛が人生の8割を占めているような人たち。もちろん、本作でも「時は恋なり」とか「恋とお祭りの人生」とか歌っていて、輝かしい恋愛讃歌になっている。『ラ・ラ・ランド』が女子に好評で男子に不評なのも、そういう部分が大きいのではなかろうか。僕もミュージカルは好きなほうなので、趣味としてはゲイっぽい傾向があるのかもしれない。

カトリーヌ・ドヌーヴが吸いかけのタバコを手にしながら歌うシーンは、灰が落ちやしないか冷や冷やしながら観ていた。