海外文学読書録

書評と感想

マーク・サンドリッチ『スイング・ホテル』(1942/米)

★★★

ニューヨーク。歌手のジム(ビング・クロスビー)はショービジネスを引退してダンサーのライラ(ヴァージニア・デール)と結婚し、コネティカット州の農場でのんびり暮らす予定だった。ところが、ライラは婚約を破棄し、ダンサーのテッド(フレッド・アステア)と仕事を続けることにする。一方、ジムは農場を祝日のみ開くホテルとして使うことにし、ダンサーのリンダ・メーソン(マージョリー・レイノルズ)と年間15日限定のショービジネスをするのだった。

本作は「ホワイト・クリスマス」というヒット曲を生んだことで有名らしいけど、正直この曲を聴いたの今回が初めてだった。歌っているビング・クロスビーのこともよく知らない。

ビング・クロスビーフレッド・アステアのW主演ということで、2人それぞれ見せ場がある。前者の見せ場は「ホワイト・クリスマス」を歌うシーン、後者の見せ場は爆竹を破裂させながらのタップダンスシーンだ。クロスビーは歌が持ち味で、アステアはダンスが持ち味だから、一粒で二度おいしいと言えるかもしれない。ただ、クロスビーが歌だけなのに対し、アステアも歌もダンスも得意だから、後者のほうが芸達者に見えた。やはり映画は視覚に訴える表現がもっとも重要だと思う。ミュージカルでダンスができないのは大きなハンデではなかろうか。

クロスビー、アステア、女優の3人によるパフォーマンスはバランスが取れていて良かったし、アステアと女優のコンビも動きがダイナミックで見栄えがした。でも、爆竹を破裂させながらのタップダンスを見ると、アステアはピンが一番いいって思う。フロアのバチバチとアステアの動きが見事にシンクロしている。あのタップダンスは永遠に見ていたかったほどだ。爆竹を破裂させるギミックなんてよく考えついたよなあ。人間が技術を極めると芸術になる。そんなことを思わせるパフォーマンスだった。

リンカーン生誕記念日のショーでは、ジムとリンダが顔に靴墨を塗って黒人に扮装するのだけど、これって今やったらアウトなやつじゃねーかとハラハラドキドキした。唇の腫れぼったさまで律儀に再現していて、ひと目見ただけで反PCだと分かる。『ちびくろサンボ』【Amazon】なんか目じゃないくらい突き抜けていた。しかし、これが昔の映画のいいところである。今だったらできないことを平然とやってるから価値があるのだ。これは古典を観る醍醐味のひとつだろう。