海外文学読書録

書評と感想

ジャック・ドゥミ『シェルブールの雨傘』(1964/仏)

★★★

1957年11月。20歳の自動車整備工ギイ(ニーノ・カステルヌオーヴォ)と17歳のジュヌヴィエーヴ(カトリーヌ・ドヌーヴ)は恋仲にあった。しかし、ジュヌヴィエーヴの母は2人の交際に反対している。やがてギイは2年間の兵役を勤めるためにアルジェリアへ。その後まもなく、ジュヌヴィエーヴは自分が妊娠していることに気づく。ギイが不在の間、宝石商のカサール(マルク・ミシェル)がジュヌヴィエーヴに愛を伝え……。

のっけから普通のセリフをリズミカルに歌っていて面食らったのだけど、結局はこれが最後まで続いたので逆に感心した。最初の違和感も慣れてくると流れるように話が進んで心地いい。ミュージカル映画って、通常シーンとミュージカルシーンのメリハリが大切だと思っていたから、これには偏見を覆された。本作はやってることがとても面白い。

本作を見ていると、やはり男の価値は金で、女の価値は若さなのだと思う。最初ジュヌヴィエーヴの母が娘の交際に反対してたのって、「娘がまだ若いから」だったけれど、その後、カサールに恋心を打ち明けられた際には強く反対してないので、あれは建前だったことが分かる。本音は金。ギイが貧乏人なのに対し、カサールは金持ちだった。ジュヌヴィエーヴがギイを捨ててカサールに走ったのも、その部分が大きかったのだろう。内心ではラッキーって思っていたのではないか。男は女を守るための雨傘であり、現代でそれを実行するには経済力を必要とする。もう腕力の時代ではないのだ。男の価値は金、女の価値は若さ。それがこの世界の原則である。

ギイからすれば、結婚を約束した女が他所の男とくっついて子供ごと行方をくらました、そういう酷い話である。でも、不思議と悲壮感がないのは、彼は彼で別の女と結婚し、子供を成したからだろう。おまけに、ガソリンスタンドの経営者にもなっている。これで独身・無職だったら救いようがなかったので、とりあえずはほっとした。さすがに作り手もそこまで鬼畜にはなれなかったみたいだ。ギイも一応は幸せを手に入れたので良かった。

失意のギイがベッドを共にした娼婦が、偶然にもジュヌヴィエーヴという名前だった。これはやはりメタファーと解釈すべきだろうか。つまり、妊娠しながらも他所の男に走ったジュヌヴィエーヴは娼婦と同等だということ。そう考えると、本作は意外と毒のある話かもしれない。