海外文学読書録

書評と感想

デイミアン・チャゼル『ラ・ラ・ランド』(2016/米)

★★★★

女優の卵ミア(エマ・ストーン)は、カフェ店員として働きつつオーディションを受ける日々を送っていた。一方、ジャズピアニストのセブ(ライアン・ゴズリング)は、昨今のジャズの衰退を嘆きつつ、古き良きジャズを聴かせる店を開こうと夢見ている。ミアとセブは運命的な出会いを果たし、色々あって交際するのだった。

一応ミュージカル映画だけど、ミュージカルとしていい部分はそんなになくて、渋滞の高速道路でモブたちが歌って踊るシーンと、ロサンゼルスの夜景を背にミアとセブが歌って踊るシーン、これくらいしか印象に残ってない。総じてジャズを基調とした音楽は気に入ってるのだけど(サントラを所持するくらいには気に入ってる)。でも、ミュージカルって歌と踊りの両方が揃ってないとなかなか評価しづらい。なので、観ていて隔靴掻痒の感はあった。

しかし、物語はとてもいい。ミアもセブも夢を追いかけていて、それゆえに付き合っていてもすれ違いが起きる。昔みたいに男が夢を追いかけて、女が内助の功で彼に尽くす、そんな図式だったら関係がこじれることもなかっただろう。ところが、今は時代が違う。男も女も夢を追いかけて、お互いに励まし合って、夢と恋が矛盾する場合はそれぞれ別の道を歩むことも厭わない。恋よりも夢を優先する。そういう時代なのだ。終盤でミアとセブが結ばれるルートが提示されるけれど、これはちょっと未練がましいかなって思う。このルートだとミアの夢は叶っても、セブの夢は微妙に変わってしまうし。それに2人とも押し出しが強いから、たとえ子供が産まれてもいずれ離婚するのではないか。と、そういう邪念が脳裏をよぎったので、せつなさを感じつつも2人の末路は必然だったと納得する。恋よりも夢のほうが大切。今はそういう時代だ。

本作はおたくと親和性が高い。セブは古き良きジャズにこだわる生粋のジャズおたくだし、ミアがオーディションを受けまくる様子は日本だとアニメ声優に相当する。終盤のパラレルワールド的な演出も、日本ではエロゲでお馴染みだ。仮にこれを日本でリメイクするとしたら、バンドマンと声優の物語になるだろう。アメリカン・ドリームならぬジャパニーズ・ドリーム。これはこれでちょっと観たいかなと思った。

個人的に刺さったのは、ジャズバンドで成功したセブがコンフリクトに直面するところ。すなわち、このまま人の好みに迎合して大金を稼ぐか、あるいは自分が本当にやりたいことに向かって軌道修正するか。僕も仕事でそういう悩みを抱えているので、セブの境遇は他人事には思えなかった。いやホント、100%好きなことで稼ぐのって難しい。金のために妥協している自分がいる。