海外文学読書録

書評と感想

ジョン・スタージェス『ガンヒルの決斗』(1959/米)

ガンヒルの決斗(字幕版)

★★★

馬車で移動していたインディアンの母と息子が、2人のならず者に追いかけられて転倒。母が2人の注意を引きつけている間に、息子はならず者の馬を奪って保安官である父マット(カーク・ダグラス)の元へ帰る。親子が現場に向かうと母は強姦され死亡していた。馬の鞍からマットは持ち主が旧知のベルデン(アンソニー・クイン)であることを知る。ベルデンはガンヒル一帯を支配する権力者だった。マットは汽車で彼の住むガンヒルへ向かう。

犯人はベルデンの息子で、ガンヒルに着いたマットはあっさり彼を捕まえる。ところが、本番はそこから。帰りの汽車まで6時間あるため、マットは犯人を人質にしてホテルの2階に立て籠もる。そこをベルデンと手下たちが包囲するのだった。

とまあ、脚本がなかなか変わっていて、西部劇も色々なパターンがあるなと感心した。

変わってると言えば、アンソニー・クイン演じるベルデンの人物像も変わってる。というのも、ベルデンは息子にマッチョな教育を施す一方、彼のことが可愛くて仕方がなくて、何とか命を助けようと奔走しているのだ。息子が親友マットの妻を殺した、そのことを知っているにもかかわらず、親友よりも息子を、法の裁きよりも息子の命を選択している。この子煩悩ぶりが目新しかった。だいたい町の顔役ともなると、私情よりも世情のほうを優先させるだろう。たとえ息子といえども、悪事をなしたら保安官に身柄を差し出すのではないか。しかし、ベルデンはそうじゃない。馬鹿息子のために、敢えて正義に反することをやっている。西部劇にも色々なパターンがあるなと感心した。

逆に西部劇らしいところは、ヒーローがフェアネスを重んじているところだろう。カーク・ダグラス演じるマットは、犯人を取り戻しに来たベルデンを殺すチャンスがあったにもかかわらず、かつて命を救われた借りがあるからということで見逃す。ここで貸し借りなしの関係になった。さらに、ラストではマットとベルデンが早撃ちで決着をつけていて、これも西部劇らしいと思う。決して背後から相手を撃たないところがいい。ジャンル映画はこういう様式美が大切だ。

それにしても、犯人の末路は何とも言えない。てっきり汽車で連れ帰って法の裁きを受けさせるものだと思っていたら、あんな最後を迎えるとは……。マットもやりきれないんじゃないかな。汽車で帰るシーンはどことなく哀愁が漂っていた。