海外文学読書録

書評と感想

ジョージ・スティーヴンス『シェーン』(1953/米)

シェーン(字幕版)

シェーン(字幕版)

  • アラン・ラッド
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★★★

1890年のワイオミング州。ここでは牧場主と開拓農民の間で土地をめぐるトラブルが起きていた。開拓農民の一人ジョー(ヴァン・ヘフリン)は、妻マリアン(ジーン・アーサー)と息子ジョーイ(ブランドン・デ・ワイルド)の3人暮らし。彼は古株の牧場主ライカー(エミール・メイヤー)と揉めている。そんななか、流れ者のシェーン(アラン・ラッド)が馬に乗ってやってきた。

映画としてはやや間延びしてる感じがするものの、開拓地の雄大な雰囲気が伝わってくるところが良かった。囲いの中で家畜を飼い、荒れた土地を耕す。住居はもちろん手作りだ。こうやって自給自足の生活をするのが、今流行りの「丁寧な暮らし」ってやつだろう。今更こういう生活は送れないにしても、潜在意識に眠る憧れを喚起されたことは確かだ。3日間限定のホームステイなら試しにしてみたい。

土地は西部劇においてしばしば係争の対象になっている。本作の場合はホームステッド法が関係しているようだ。牧場主のライカーは古くからの住人で、インディアンやならず者からこの土地を守ってきた。容貌からして年季の入った苦労人である。彼には古株という自負があるから、後から住み着いて自分の権利を脅かす開拓農民が許せない。全員を退去させようと露骨な嫌がらせをしている。彼のやってることは非道で、悪人なのは間違いないのだけど、その背景には情状酌量の余地があって、観ているほうとしてもなかなか複雑なのだった。

西部の男たちはとにかく「臆病者」のレッテルを貼られるのが嫌なようだ。温厚なシェーンでさえもそう思っていて、酒場での無謀な乱闘に及んでいる。ジョン・ウェインを彷彿とさせるタイマンでの殴り合いから、1対多数の大乱闘へ。圧倒的に不利な状況の中で喧嘩している。さらに別の開拓農民は、凄腕のガンマンに挑発されて銃を抜き、あっさりと撃ち殺されてしまうのだった。それもこれも「臆病者」と笑われるのが嫌だからで、現代人としてはこのマチズモにぞっとする。「男らしさ」を守ることが何よりも重要な社会は、僕みたいな軟弱者にとっては息苦しい。こんな見栄のために命を賭けるなんてまっぴらごめんである。

本作のクライマックスは、シェーンとガンマンが早撃ちで決着をつけるシーンだろう。ここは緊張感が抜群で素晴らしかった。お互いが拳銃を抜くまでの間が最高である。こうやって一瞬で片がつく勝負は見応えがあるなあと感心した。