海外文学読書録

書評と感想

ジョン・スタージェス『シノーラ』(1972/米)

★★★

ニューメキシコ州シノーラ。留置所に放り込まれていた牧場主のジョー・キッド(クリント・イーストウッド)が、裁判所でメキシコ人の武装集団に遭遇する。そこの首領はルイス・チャーマ(ジョン・サクソン)で、彼は白人地主のフランク・ハーラン(ロバート・デュバル)と対立していた。チャーマは自分たちの土地が不当に奪われたその権利書を燃やして逃走。紆余曲折の末、ジョーはハーランに雇われてチャーマ一味を追跡する。

BGMがめちゃくちゃ劇的で思わず笑ってしまった。日本の時代劇っぽいというか、格好つけるシーンではそれっぽいシャキッとした曲が流れている。白黒時代の西部劇では考えられない演出で最初は戸惑った。

物語としては平板な印象があるけれども、序盤・中盤・終盤と小さい見せ場がそれなりにあって、少なくとも退屈することはなかった。クリント・イーストウッドが苦み走った表情をしているだけでもご飯三杯はいける。また、馬に乗った集団が荒野をぞろぞろ移動するシーンも見栄えがするし、ハーラン率いるならず者たちが絵に描いたような悪党で、そんな彼らがライフルで射撃するところも様になっていた。

終盤までジョーのアクションを控えめにし、溜めて溜めて最後にぶっ放す作劇法が目を引いた。クライマックスまでにジョーは銃を2回しか使わない。1回目は酒場でチャーマの仲間を射殺したとき。2回目は岩場に向けて遠距離狙撃したとき。さらに、道中ではフランクによって武装解除されていて、そこから銃を手に入れ、アクションゲームみたいなトリックプレーをしている。この時代にはサイレンサーなんてないから、発砲したらそのことがバレてしまう。だから、肉体と道具を駆使して静かに敵を排除する趣向は理に適っていた。

終盤ではジョーがモーゼルを乱れ撃ちしたり、機関車で酒場に突っ込んで中にいるならず者たちを射殺したり、それまでに比べて派手なシーンを見せている。アクションの山場がどうなるかはわりと楽しみにしていたので、この展開には満足した。

それにしても、西部劇が徹底して法治主義を貫くのは不思議なことだ。現代劇ではしばしば私刑が題材になるだけに尚更である。この頃は正義――アメリカの正義――が無邪気に信じられた時代だったのだろう。現代人の僕は、法が正しいとは限らないことを知っているので、その牧歌的な価値観には危険を感じる。