海外文学読書録

書評と感想

是枝裕和『万引き家族』(2018/日)

★★★★

東京・下町。ボロい一軒家に初枝(樹木希林)をはじめとした5人の家族が住んでいた。年寄りの初枝は年金を受給しており、壮年の治(リリー・フランキー)と妻・信代(安藤サクラ)がそれを補う形で労働している。また、娘の亜紀(松岡茉優)はJK見学店でバイトし、治と息子の祥太(城桧吏)は万引きをしていた。表向きは初枝が独居老人という形になっていて、他の家族は住んでいないことになっている。そんなある日、信代がゆり(佐々木みゆ)という女の子を自宅に連れてくる。ゆりには虐待の跡があった。

家族制度の限界というか、人間社会の不備というか、とにかく生きるうえでの根本的なシステムエラーを突きつけてくる映画だった。

家族というのはガチャの要素が強くて、親は子供を選べないし、子供は親を選べない。たとえ相手が気に入らなくても、一緒に生活していく必要がある。ここにすべての欠陥が詰まっていると言えよう。たとえば、小さい子供は親が暴力を振るってきても、我慢してそれを受け入れるしかない。相手を屈服させる体力もなければ、家から逃げ出す能力もない。最初に引いたガチャに従って、相当の年数を過ごす必要がある。世間は我々に常識という名の規範を押し付けてくるけれど、実はそこからこぼれ落ちる者が一定数いて、彼らを救う手立てが世間にはないのだ。常識では落伍者を救えない。だから生き延びるために常識はずれの手段に縋ることになる。それが本作の疑似家族であり、やむにやまれぬ事情から生まれたアジールなのだろう。近代社会では法の網の目が我々を覆っているから、彼らのやっていることは不法行為になる。世間から後ろ指をさされることになる。現代とは何て窮屈な世界なのだろう、と思い知らされた。

最初はボロい一軒家に住んでる人たちが家族には見えなくて、まるで寄せ集めじゃないかと思ったけれど、終わってみればその印象が正しかったので、これは作り手がわざとそう演出したということが分かった。実は物語が進んでいくうちに家族の絆らしきものが見えて、いつしか最初の違和感は消えていた。本当の家族のように見えた。それを一気に覆すのだから人が悪い。この転換は見事だった。

音だけしか聞こえない花火のシーンが秀逸で、ボロ屋の人たちが軒先に出て顔を出すところを上から映す、その絵面がとても良かった。都会の隙間に暮らす人たちのささやかな風景。これぞ家族という感じがする。