海外文学読書録

書評と感想

アンリ=ジョルジュ・クルーゾー『恐怖の報酬』(1952/仏)

★★★★★

ベネズエラ。フランスから出稼ぎにきたマリオ(イヴ・モンタン)は職にありつけずに無為の生活を送っていた。彼はジョー(シャルル・ヴァネル)という同じフランス人と知り合い意気投合する。そんなある日、油田で火災が発生。ニトログリセリンで鎮火することになり、石油会社はトラックでの輸送を2000ドルの報酬でやらせることに。マリオたち4人がそれに従事する。

ニトログリセリンを運ぶだけでこんなにサスペンスが生じるとは思わなかった。というのも、道が思った以上に悪路なのだ。先進国のようにアスファルトで舗装されてるわけもなく、基本的にはでこぼこした小道、そして時には険しい山岳地帯も通っている。ニトログリセリンは少しでも衝撃を与えたら爆発するから、当然スピードは出せない。ざっと見たところ、道によって時速10kmから50kmの間で走行している。ただ走ってるだけでも緊張するのだが、そのうえ道筋には腐った木の橋や巨大な落石など、いくつか障害があるのだから恐ろしい。困難をひとつひとつクリアして進んでいく様子は、昔の牧歌的な冒険小説に似ている。

若いマリオが命より金を優先するのに対し、年寄りのジョーは逆に命を惜しんでいる。このコントラストが面白い。車でたとえるならアクセルとブレーキといったところだろう。マリオはジョーのことを臆病者だと軽んじているが、しかし彼みたいな心配担当がいないと、とてもじゃないが生き延びることはできない。2人ともイケイケだったら早めにリタイアしていたのではないか。つまり、度胸競争みたいになってお陀仏。ジョーはジョーで役に立っていたと言える。

水たまりにはまったとき、トラックを運転するマリオがジョーの脚を躊躇いなく轢いたのには驚いた。ええ、人の命よりも金を優先するのかよ! みたいな。この場面は、「金は命より重い」という利根川幸雄のセリフを思い出した*1。さらに、木の橋でトラックが立ち往生するシーンや、落石をニトログリセリンで爆破するシーンも、命を賭けてる感じがあってスリル満点である。僕にはとてもここまではできないかな。金より命のほうが大切だし。たとえ5000兆円積まれてもやらないと思う。

ラストは昔の映画でよくある終わり方だった。実存主義的結末というやつ。こうやって散っていくのは儚い。

*1:賭博黙示録カイジ』【Amazon】を参照のこと。