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ロバート・グレーヴズ『この私、クラウディウス』(1934)

ロバート・グレーヴズ ★★★★☆
この私、クラウディウス

この私、クラウディウス

 

★★★★

ローマ皇帝クラウディウスの自伝。生まれついての片端者だったクラウディウスは、大伯父のアウグストゥスや祖母のリウィアなど、親族から疎まれていた。そんな彼が、アウグストゥスティベリウス、カリグラを経て、第4代ローマ皇帝に即位する。

これは歴史的打ち明け話である。ところで誰に打ち明けようというのか? 私は答える、これは後世に向けた打ち明け話なのである、と。曾孫や玄孫に向かって語るのではなく、遠い遠い後世の人々に向かって語ろうというのである。(5)

クラウディウス帝については『ローマ人の物語』【Amazon】でしか知らなかったけど、本作はアウグストゥスからカリグラまでのユリウス・クラウディウス朝を内側から見た小説になっていて面白かった。回想録を忠実に模した『ハドリアヌス帝の回想』とは違い、こちらは興趣に富んだ比較的歴史小説っぽい内容である。

本作はクラウディウスが語り手なのだけど、彼が活躍することはほとんどなく、歴史の傍観者、あるいは記録者みたいな立ち位置になっている。クラウディウスが即位するのは物語の最後の最後。本作には“Claudius the God and His Wife Messalina”(『神、クラウディウスとその妻メッサリーナ』)【Amazon】という続編があるようで、これはまだプロローグなんだなあという印象がある。まあ、それにしてはやたらと長かったけど……。

内容は暗殺と粛清に溢れているうえ、史実を大胆に解釈しているので、帝政ローマ時代に興味がある人なら面白く読めると思う。出てくる女たちがとにかく印象的で、なかでもアウグストゥスの妻であるリウィラは、悪女の頂点みたいな業の深さで圧倒される。というのも、とにかく権勢欲が強いこと強いこと。目的のためには手段を選ばないし、皇帝であるアウグストゥスティベリウスを操っているし、彼女にはどこか中国の皇太后を思わせるところがある。

ティベリウスやカリグラの行った粛清の嵐も凄まじく、私利私欲や気まぐれのために多数の人間が殺されていくところは何ともやりきれない(特にカリグラは気が狂っている)。塩野七生古代ローマを理想的な国家のように理解しているところがあるけれど、これを読むと東洋の専制国家と変わらぬ野蛮さじゃないかと思えてくる。もちろん、ゲルマニクスやポストゥムスとった高潔な人物もなかにはいるものの、そういう人たちはまず長生きしない。クラウディウスも生き残ったのが不思議なくらい何度も危ない目に遭っている。

というわけで、とても読み応えのある歴史小説だった。続編も翻訳されてほしい。