海外文学読書録

書評と感想

西河克己『青い山脈』(1963/日)

青い山脈

青い山脈

  • 吉永小百合
Amazon

★★★

田舎の城下町。一人バイク通学をしている寺沢新子(吉永小百合)は女子高に転校してきたばかり。そんな彼女の元にラブレターが届く。ところが、それはクラスメイトのいたずらだった。新子は教師の島崎雪子(芦川いづみ)に相談する。ホームルームで荒物屋の六助(浜田光夫)との仲を疑われたから仕組まれたことが分かり、それが町の有力者を巻き込んだ大事に発展する。

原作は石坂洋次郎の同名小説【Amazon】。

戦後民主主義を高らかに謳った青春映画。保守的な価値観を戯画的に描きつつ、民主的な議論にフォーカスしている。こういうのって一定の年齢層にとっては甘酸っぱい郷愁を誘うのだろう。何かの本で読んだが、昔は本作で描かれたようにホームルームで生徒と教師が対等に討論していたようなのだ(翻って僕の学生時代はそういう文化が廃れていた)。戦後民主主義とは平等信仰である。生徒と教師は平等だし、男性も女性も平等である。そして、物事はすべて話し合いで決める。本作はホームルームとPTAの役員会議が見所になっていて、みんな堂々と自分の意見を述べている。他人の意見に耳を傾け、自分の意見を主張し、最後は多数決で合意に達する。戦後民主主義とはかくあるべしという思いを強くした。

舞台は伝統を重んじる田舎町だけあって保守的な価値観が燻っている。女は結婚したら亭主に殴られ、姑に虐められる。学校を卒業したら嫁に行くのは当たり前で、男に反抗したら「女のくせに」と非難されてしまう。この町では男尊女卑の空気が充満しているが、表向きは平等社会だから大っぴらにはならない。そんな田舎町で堂々と自己主張する雪子は異物だ。彼女は東京の女子大を卒業してこの町に赴任してきた。事あるごとに正論を述べるせいか、陰では生意気なインテリ女と評されている。本作では保守的な価値観と民主的な価値観の鍔迫り合いが描かれており、終盤のPTA役員会議はその集大成になっている。面白いのは、生徒たちも保守的な価値観を内面化しているところだろう。ホームルームでは大多数が新子のことをふしだらな女と指弾していた。女子は貞淑でなければならず、男子との不純異性交遊はもってのほかである。それはこの学校の伝統に反しているからやめさせなければならない。よりによって生徒が体制側なのだから呆れてしまう。新子もまた異物として伝統に立ち向かうのだった。

新子も雪子も凛としていて後のウーマンリブを先取りしている。こういう女性を演じた吉永小百合と芦川いづみはやはりすごい。一方、吉永の相手役となる浜田光夫、芦川の相手役となる二谷英明、そしてコメディリリーフの高橋英樹はいかにも脇役といった感じで二大女優を引き立てている。本作は戦後民主主義を高らかに謳い、男女平等の精神を体現した映画だが、それゆえに二大女優が輝いていた。

殴り合いの乱闘があるところは日活アクションの系譜を受け継いでいて面白い。これ以外にも暴力シーンがあったが、どちらも必然性のないシーンである。それでも敢えて入れたのは日活のカラーを前面に出すためだろう。本作は良くも悪くも日活の映画に仕上がっており、それゆえにファンとしては贔屓してしまう。