海外文学読書録

書評と感想

トニーノ・チェルヴィ『野獣暁に死す』(1968/伊)

野獣暁に死す (字幕版)

野獣暁に死す (字幕版)

  • モンゴメリー・フォード
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★★

妻殺しの冤罪で刑務所に入れられていたカイオワ(モンゴメリー・フォード)が、5年の刑期を終えて出獄する。彼は友人のフェゴー(仲代達矢)に妻を殺され、その罪を着せられていたのだった。現在、フェゴーはコマンチ団を率いて強盗している。現金を引き出したカイオワは、4人の拳銃使いを雇って復讐を始める。

マカロニ・ウェスタン。脚本にダリオ・アルジェントが参加している。

『荒野の七人』のマカロニ版をやりたかったのだろうが、仲間集めも復讐も薄味で物足りなかった。仲間集めはあっさりしすぎているし、復讐も闇討ちみたいな感じで敵を減らしてからの一騎打ちである。とはいえ、95分(1時間35分)の尺だとこんなものなのだろう。唯一捻っているのは仲間が一人も死なないハッピーエンドなところで、本家ハリウッドの『荒野の七人』と逆転しているところが面白い。通常だったらハリウッド映画のほうがハッピーエンドになるはずだから。ともあれ、本作は良くも悪くもB級感が強いところが特徴だ。個人的にはすべてが地味でいまいちだった。

本作のいいところは序盤に集約されている。まずは独房でカイオワが早撃ちの練習をしているシーン。使っているのは木彫りの拳銃である。刑期5年でひたすらこれをやってきた。プロフェッショナルのすごみが感じられる。続いては銃砲店で拳銃を購入するシーン。カイオワは無言で銃を品定めしている。銃を一つずつ手に取って感触を確かめている。時間をかけてようやく目当ての物を選び、店主が手で価格を示す。銃を購入したカイオワは早速店の入り口にいた2人のならず者を撃ち殺した。この間、セリフは2つしかない。この無言劇が本作で一番良かった。とにかくカイオワがクールである。これより後は蛇足と言っていいくらいだった。

仲間集めはあっさりしすぎだった。一人目はカイオワに銃を突きつけるも金であっさり仲間になる。二人目は金の多さに危険を感じて渋るも腰抜け呼ばわりされたことで仲間になる。三人目は金額を提示したら内容も聞かず即座に承諾した。ここまで交渉はスムーズである。唯一拗れたのが四人目で、カイオワが独房から出してやったのに裏切って逃げてしまった。しかし、そいつもカイオワたちに危機を救われ、金を提示されることで仲間になる。カイオワが彼らを仲間にできたのは豊富な資金があったからだった。尺が短いからあまり時間をかけていられないのだろうが、ここまで難易度が低いといまいち有り難みを感じない。その点、豊富なエピソードに彩られた『七人の侍』はすごかった。娯楽映画としては完璧な脚本である。仲間集めについては、『七人の侍』→『荒野の七人』→本作と段々薄まっている。やはり映画において脚本は重要なようだ。

本作の敵役は仲代達矢。目をギョロつかせて強盗団の頭目を演じている。彫りの深い顔立ちのせいかイタリア人に囲まれてもあまり違和感がない。現代の俳優だと阿部寛に似ている。阿部寛が『テルマエ・ロマエ』で古代ローマ人を演じたように、仲代達矢も無国籍な西部人を見事に演じていた。

フェゴーが5年前にカイオワの妻を殺したのは、彼女がインディアンであることが原因だ。「インディアンとは結婚できん」とカイオワに言い放っていた。ところが、現在のカイオワはインディアンを率いて強盗している。これはどういうことだろう? 彼はレイシストではなかったのか? フェゴーの行動原理が謎である。