海外文学読書録

書評と感想

岡本喜八『殺人狂時代』(1967/日)

★★★★

大学講師の桔梗信治(仲代達矢)が、ひょんなことから大日本人口調節審議会なる秘密結社に命を狙われる。彼は記者の鶴巻啓子(団令子)と車泥棒の大友ビル(砂塚秀夫)を仲間に加え、結社の刺客たちと対決するのだった。やがて黒幕の溝呂木省吾(天本英世)が登場。溝呂木には桔梗を狙う理由があった。

原作は都筑道夫『なめくじに聞いてみろ』【Amazon】。

赤ジャケの『ルパン三世』【Amazon】みたいなノリで面白かった。天本英世演じる溝呂木を始めとして、奇怪な人物ばかり出てくる。殺し屋との対決がいちいち楽しいし、ストーリーも意外性があって満足した。

日本政府はオイルショック後の1974年に少子化を目指す政策を打ち出していたらしい*1。本作の大日本人口調節審議会はその先駆けになるのだろう。人口の選別が優生思想を元にしているため、必然的にナチス・ドイツにまで話が及んでいる。本作は一見すると巻き込まれ型スリラーっぽいけれど、登場人物の正体が分かって全貌が明らかになったときは思わず膝を打った。誰も彼もその行動には理由があったのだ。全体としてはお馬鹿映画っぽい骨子でありながらも、それを支える土台は緻密に組み立てられている。本作は俳優の怪演ぶりやセットのキッチュさばかりに目が行きがちだけど、原作ものなだけあって全体像がよく練られていて感心した。

溝呂木のマッド感が凄まじい。人生最大の快楽は殺人と断言し、どんな人間も内心では互いのことをくたばればいいと思っている、と喝破する。実に正しいではないか。また、人間の歴史で偉大な人物はキチガイとか、戦争による大量殺戮はこの上なく楽しいとか主張している。Twitterでつぶやいたら凍結されそうな危険思想だ。そんな彼は確信型犯罪者であり、殺し屋組織のドンとして君臨している。溝呂木は存在自体が荒唐無稽でほとんど漫画の登場人物だけど、それを律儀に立体化したところが良かった。

敵の女霊媒師(川口敦子)が大友を追い詰めながらもパンチラを気にしてビルの窓から落下したのが可笑しかった。また、富士山麓自衛隊演習場で桔梗が不発弾を目の当たりにした際は、「俺たちの税金だ」と軽口を叩いている。さらに、本作はサービスシーンもちらほらあって、団令子がヌードを披露したり、桔梗らが2人組の水着ギャルと組んず解れつしたりもする。まさに娯楽映画のお手本だった。