★★★
アメリカ人のトム・リプリー(デニス・ホッパー)は贋作画家の絵をヨーロッパで売り歩いていた。ハンブルクのオークションでトムは額縁職人のヨナタン(ブルーノ・ガンツ)に出会う。ヨナタンはトムが出品した絵を贋作だと見抜いていた。ヨナタンは血液の病気を患っている。ある夜、トムの元にミノ(ジャラール・ブラン)という男がやってくる。ミノは素人の男に殺しをさせたがっていた。トムはヨナタンに目をつける。
原作はパトリシア・ハイスミスの同名小説【Amazon】。
一般人が殺し屋に仕立てられる。しかも、ターゲットはマフィアの殺し屋。これをパリの駅構内で射殺する。どう考えてもプロの殺し屋を雇ったほうがいいと思うが、そこは何か事情があるのだろう。ヨナタンは血液の病気で「棺桶に片足を突っ込んでいる」と噂されている。だから白羽の矢が立った。依頼主のミノは捨て駒にする気満々である。成功すれば御の字、失敗しても自分のところに累は及ばない。ヨナタンの悲劇は首尾よく成功させてしまったことだ。ターゲットを一発で仕留め、現場から無事に逃げた。これに味をしめたミノはまた別の依頼をする。ヨナタンはアリバイ工作のために別のマフィアを殺すことになった。しかも、今度は列車の中。ターゲットは護衛付きと難易度が高い。おそらく逃げ切ることは不可能だろう。しかし、引き受けざるを得なかった。マフィアの世界は一度足を突っ込んだら死ぬまで抜けることができない。これを見かねたトムはヨナタンに手を貸すことにする。
事を通してヨナタンとトムは奇妙な友情を育む。しかし、そもそもヨナタンを泥沼に引きずり込んだのはトムだった。トムがヨナタンの情報をミノに流したせいでこうなったのである。それはトムにとって意趣返しのつもりだった。ヨナタンに贋作を見抜かれた際、実際に会って挨拶したらちょっとした言葉をかけられた。それに反応してトムも動いたのである。おそらくトムは軽い気持ちでやったのだろう。ところが、それが存外大事になってしまった。ヨナタンを生死の境まで追い詰めてしまった。さすがにそれは不本意だったのか、トムはヨナタンに協力して何とか足抜けさせようとする。だが、その代償は大きかった。2人はマフィアとの対決を余儀なくされる。
ささやかな意趣返しが予想以上の大事になって命懸けの後始末をすることになる。本作はアイロニカルなプロットも去ることながら、ヨーロッパならではの映像がいい味を出していて、やはりヨーロッパはロケーションで得をしていると思った。これがニューヨークだったらまた別の話になる。東京だったらそもそも話が成立しない。ヨナタンの顛末も昔のフランス映画みたいでいかにもヨーロッパ的だ。ヨーロッパだからこそ運命的なラストが様になる。苦労は必ずしも報われるとは限らない。それどころか、水の泡になることだってある。運命の女神は残酷なのだった。
デニス・ホッパーはトム・リプリーという柄ではないのだが(かつてアラン・ドロンが演じただけに)、カウボーイハットが様になっていた。一方、ヨナタン役のブルーノ・ガンツははまり役で、可哀想な額縁職人を卒なく演じていた。ふと思ったが、ヨナタンに妻子がいてトムに女っ気がない(家族もいない)のは、トムが孤独な根無し草であることを示しているのだろう。デニス・ホッパーからはそういう匂いがしなかった。