海外文学読書録

書評と感想

蒼樹うめ『ひだまりスケッチ』(2004-)

やまぶき高校美術科に合格したゆのが、学校の門前にあるアパート「ひだまり荘」に入居する。隣室には同級生の宮子、下の階には2年生のヒロと沙英が住んでおり、4人は仲良く交流するのだった。

既刊10巻。そのうち9巻まで読んだ。本作は4期にわたってアニメ化【Amazon】されており、アニメではヒロと沙英の卒業までを扱っている(未見)。

ゼロ年代にスタートした漫画のわりに、絵に違和感がなくて驚いた。樋上いたるの絵をゼロ年代の代表とするならば、それよりも確実にテン年代のほうを向いている。むしろ、2004年の時点で『魔法少女まどかマギカ』【Amazon】の面影さえあるのだから驚きだ。この年はちょうどゲーム『CLANNAD』【Amazon】と同時期なので、やはり文化的には名実ともにゼロ年代全盛期である。それなのに今読んでもしっくりくるのだからすごい。ゼロ年代も捨てたものではないと思った。

本作のような女子寮ものってきらら系にはけっこうあって、たとえば、『こみっくがーるず』【Amazon】や『おちこぼれフルーツタルト』【Amazon】なんかが思い浮かぶ。このジャンルの利点は主要キャラをひとつの場所にまとめておけるところだろう。学校生活も私生活も満遍なくネタにできる。結局、この手の漫画は女子同士でいかにしてキャッキャウフフするかなので、そのために女子寮を使うのは合理的なのだった。というわけで、女子寮ものが一時代を築くのも納得である。

てっきりサザエさん時空で話が展開するのかと思っていたら、ちゃんと時間が経過していて驚いた。プールや文化祭、クリスマスといった季節のイベントから、進学・進級といった環境を一新するイベントまで一通り揃えている。進学や進級に伴ってメンバーが入れ替わるところは『げんしけん』【Amazon】っぽい。高校生活はわずか3年しかなく、いつか必ず終わりが来る。限られた時間の中で生活しているからこそ尊いのだ。作中では各人が進路について迷っていて、ギャグの中にもきらりと光る青春が散りばめられている。ただの萌え系ギャグ漫画で終わってないところが良かった。

多いときはレギュラーキャラが6人いるのだけど、ちゃんとキャラの描き分けができているところもいい。絵柄は『キルミーベイベー』ほどシンプルではなく、ほどほどに線が使われている。要は4コマ漫画のわりに凝ったキャラデザなのだ。それをスクリーントーンやら何やらによってキャラを彩り、ひと目で違いを分からせている。まるできららフォーマットの限界に挑戦しているかのようだった。