海外文学読書録

書評と感想

丹沢恵『あしたもゲンキ!』(1996-2001)

★★★

建設コンサルタントの計画課。25歳の宮田ゆんは就職して7年目の正社員だった。彼女は童顔でおっちょこちょい、外に出れば道によく迷っている。同僚には個性豊かな男女がひしめき、それらを松井課長が束ねていた。

全5巻。

会社員を題材にした4コマ漫画。線がシンプルで人物の描き分けができているところはポイントが高い。ただ、髪の色が白と黒の2種類しかないため、途中から白髪の人物が複数出てきて若干混乱したのも確かだ。なぜスクリーントーンを使わなかったのか疑問である。とはいえ、総じてきらら漫画よりは人物の区別がつきやすかった。何度も言うように、4コマ漫画で重要なのはひと目で人物を識別できるかどうかなので。本作はその点で言えば合格点だった。

序盤は仕事で社員がPCを使っているものの、インターネットとケータイは普及していない。まだパソコン通信が主流だったようである。給料は手渡しで連絡手段はポケベル、機械オンチの課長がFAXの説明書を読んでいる。ところが、連載が進むにつれてテクノロジーが進展、プリクラやたまごっちが出てきたかと思えば、最終巻ではケータイとポスペiMacが出てくる。そして、作中では不況であることが一貫していた。連載時は失われた30年の入口だったのである。もちろん、当時はそんな言葉はなかったはずで、長引く不況が平成初期の空気を伝えている。

本作はサザエさん時空を採用している。つまり、時は流れているのに人物は歳を取らないのだ。ゆんは最初から最後まで25歳のままだし、後輩の高瀬も22歳のままである。本作は連載誌の都合からか、積極的に季節感を出しているため、春夏秋冬を何度もループしている。ところが、人物は一向に歳を取らない。これがまたグロテスク極まりなかった。連載をリアタイで読んでいたのなら大して違和感もなかっただろう。しかし、コミックで一気読みするとぞっとするほどである。「終わらない日常」というのがここまで癇に障るとは思わなかった。

ゆんは勤続7年のベテランでありながら課内の末っ子的ポジションにいて、なかなかおいしい役どころだった。25歳というのはギリギリそのポジションに収まる年齢だろう。これが28歳だとかなりきつい。そして、おっちょこちょいでよく道に迷うところは典型的なADHDだ。おそらく作者は無自覚にそういう人物を造形したのだろうけど、しかし、これはADHDの女性が極めてチャーミングであることを示した内容である。ここから発達障害啓発漫画まではもう一息といった距離だ。このように近年の発達障害ブームは、先行する作品に対する病跡学的な視点を提供することになった。発達障害の女性は愛らしくて周囲の庇護欲を猛烈にかきたてる。本作を読むとそのことを実感する。