海外文学読書録

書評と感想

カヅホ『キルミーベイベー』(2009-)

★★★★

ギャグ漫画。天然ボケの少女やすなと殺し屋ソーニャが掛け合いをする。たまに忍者のあぎりも関わってくる。さらに、ソーニャを狙う刺客が……。

芳文社70周年キャンペーンで買った。これを書いている時点では11巻【Amazon】まで読んでいる。

連載当初から似たようなフォーマットで続いているギャグ漫画だけど、10年以上もマンネリを感じさせないところはさすがだった。しかも、基本的にやすなとソーニャの2人で話を回している。たまにリリーフとしてあぎりが出てくるものの、彼女はあくまでサポートメンバーみたいな役割だ。ほとんどレギュラーキャラ2人で長期連載を勝ち取っている。ここまで徹底的に無駄を削ぎ落とした漫画も珍しいと言えよう。ミニマリズムの美学を感じ取った。

ソーニャのツッコミがハードなところが特徴で、この部分は殺し屋という設定が活かされている。殴ったり蹴ったり関節技を極めたり、さらには上層階から突き落としたり、その暴力性は他のギャグ漫画の追随を許さない。可愛い絵柄でも軽減しきれない強烈なお仕置きが病みつきになる。やすなは隙あらばソーニャをコケにしようと躍起になっており、それを見透かしたソーニャがカウンターを食らわすのがお約束だ。しかし、連載が進むにつれてソーニャにもやすなのお馬鹿ぶりが伝染し、共倒れみたいな結末に至ることもある。ワンパターンで終わらせないところが長期連載の秘訣なのだろう。本作はやすなとソーニャの関係がとても面白い。

微温的な終わらない日常が延々と続いていくところも安定感があっていい。シリーズ全体を通した大きなストーリーはなく、ただ小さなシチュエーションが積み重なっていく。舞台はいわゆるサザエさん時空で、登場人物は歳を取らない。季節のイベントもいつの出来事か分からないその場限りの代物である。また、人物同士の関係も一定で、友情を育んだり成長を促したりすることもない。すべてがギャグのために存在するドライな空間になっており、『ONE PIECE』【Amazon】のようなストーリー漫画とは対極に位置している。

1巻に1度の割合で敵の刺客が出てくるところも楽しみのひとつだ。ソーニャが殺し屋であることを再確認させられるエピソードである。しかも、この刺客たちが軒並みマヌケで、特殊技能を用いたギャグ要員になっているところが可笑しい。この部分も数あるフォーマットのひとつになっている。