海外文学読書録

書評と感想

古川知宏『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』(2021/日)

★★★★

歌劇の名門校・聖翔音楽学園。愛城華恋(小山百代)、天堂真矢(富田麻帆)、星見純那(佐藤日向)、露崎まひる(岩田陽葵)、大場なな(小泉萌香)、西條クロディーヌ(相羽あいな)、石動双葉(生田輝)、花柳香子(伊藤彩沙)ら99期生も3年生になり、進路を決める時期になっていた。神楽ひかり(三森すずこ)は退学してロンドンにいる。そんななか、キリン(津田健次郎)によって新たなレヴューが始まる。

『少女☆歌劇 レヴュースタァライト ロンド・ロンド・ロンド』の続編。『ロンド・ロンド・ロンド』は未見だが、テレビシリーズの総集編らしいので、dアニメストアに入ってテレビシリーズを見た(プライム・ビデオにはなかった)。

好き嫌いで言えばテレビシリーズのほうが好きだが、演出については劇場版のほうが圧倒的に良かった。本作はストーリーよりも演出を味わうアニメである。テレビシリーズは幾原邦彦の影響が濃厚だった。言い方は悪いが、まるでジェネリック幾原邦彦だった*1。それに対して本作は、監督なりに演出方法を昇華させている。「皆殺しのレヴュー」、「怨みのレヴュー」、「競演のレヴュー」、「狩りのレヴュー」、「魂のレヴュー」と、各レヴューはどれも斬新な趣向が凝らされていて眼福である。幾原邦彦の軛を脱した感じだった。

本作のレヴューは『少女革命ウテナ』のデュエルみたいなもので、要は武具を用いた戦いである。現実と地続きにある異空間で少女たちはレヴューを繰り広げる。テレビシリーズではトップスターになるため、きらめきを奪い合うために戦っていた。本作のレヴューはそれとは一味違っていて、因縁の相手と決別するためのレヴューである。このシリーズでは各自ペアが形成されており、自立と依存と共存の物語が展開されていた。ペアの相手は友人でありライバルである。そんな彼女たちは最終学年になり、各自別々の道を進むことになる。そこで相手への依存を断ち切り自立していく。今回のレヴューは卒業のための通過儀礼なのだった。

メインは愛城華恋と神楽ひかりの関係で、特に華恋の過去が執拗に描かれる。幼馴染の二人は同じ舞台に立つという夢があった。ところが、華恋は目標を見失い、ひかりは聖翔音楽学園を退学してロンドンの学校にいる。この二人のレヴューが最後の見せ場になっているが、正直、脇役のほうが魅力的と言わざるを得ない。たとえば、幼馴染の自立だったら石動双葉と花柳香子のレヴューが完璧だし、ライバル同士の決着なら天堂真矢と西條クロディーヌのレヴューが至高である。個性豊かな脇役に比べると、主役の華恋はあまりキャラが立ってない。過去をいくら掘り下げてもそれは変わらないのだ。華恋は良くも悪くもブシロード的な主人公で、『ラブライブ!』シリーズの主人公と言われても違和感がない。要はポジティブに突き進んでいくだけの無個性キャラである。そこに多少の陰を加えてもやはり脇役の「濃さ」には敵わないのだ。主役が主役であるがゆえにもっとも魅力がない。本作は美少女動物園の構造的問題に直面している。

とはいえ、そういう問題を差っ引いたとしても演出は素晴らしい。想像力と創造力が結合して、アニメでしか表現できない映像を見せてくれる。各レヴューはまさに夢のような空間だった。監督の今後に注目したい。

*1:それもそのはずで監督は幾原邦彦の弟子である。『輪るピングドラム』、『ユリ熊嵐』の制作に携わった。